それぞれの道

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 具体的にいえば、一年後は学年で二人ぐらいは転校しているとか、十年後の今頃は一周してもう一度タピオカミルクティーが流行る。百年後は人口減少で地方都市が消えている、というような話だった。  後ろ向きな想像に偏っていたような気がするけど、とにかく二人で話すことは楽しかった。  いつまでも続くわけではないと分かっていても続ける。そんな逃避気味な毎日の中、六年生に上がる直前に美佳が唐突に「変わりたいと思ったこと、ある?」と訊いてきた。  二人で並ばなくなるきっかけになったその質問は美佳が隣にいるようでいて実は何歩も先を行っていたということを示すもので、私は答えによっては置いて行かれるんじゃないかと不安になり始めた。  少しだけ考えて、返した答えは「あるけど、いまの私も嫌いじゃない」というもので半分は嘘だった。本当は自分が嫌いで好きになる時なんて来ないと思っていた。  それでも嫌いじゃない答えたのは自分が完全に嫌いだと言い切りたくなかったからで、本音を言わない分だけ狡いものだった。    狡いと自覚しているだけに気まずいものを感じ始めて、翌日から少しずつ素直に話が出来なくなっていった。休憩時間は相変わらず廊下で話していたけど、一枚薄いカーテンを挟んで話しているような感じでそのまま行けばカーテンが壁に変わるんじゃないかと思うぐらいに違う空気を感じるようになった。  それは私が一方的に思っていただけかもしれないけど、美佳は美佳で日を追うごとに私と話している最中に自分の教室へ目を向けることが増えていた。      美佳が変わり始めたきっかけは多分恋だったのだろう。その方面に全く関心がなかったその時は分からなかったけど、いまなら分かる。いまも関心は薄いけど本の世界にも恋はある。私も美佳に少し遅れて子どもならではの不思議な世界を卒業して、もう戻ることはない。  封印を解くのは遥かに先のことで小学校で作ったタイムカプセルと同じなら八年先。それが早いと思うならもっと先。先延ばしをして結局は開けないかもしれない。  でも美佳と友人でいたことは確かで、距離を置いているいまも背を向けることまではしたくない。同じ教室にいる仲間だ。  遠巻きにしていながら話したいと思うのは矛盾しているけど、気持ち自体に嘘はない。  踏み出せないでいるのはまだ始まったばかりだからだ。五月とはいえ中学生活全てがこれから。入学してからずっと気持ちにあまり余裕を持てずにいたけど、月が変わった今日からは肩の力を抜いて前向きに過ごしていきたい。  頑なに一人で歩くのではなくて周りの子たちと並びながら進めたら更に学校生活が楽しくなるだろう。  だから「隣に並ぶことはない」と考えたことはなかったことにして動くことにする。少しだけ勇気がいるけど、全てに素直になればきっと大丈夫だ。  ただ、いますぐには時間的に無理だ。あと数分後には次の授業が始まる。その後の休憩時間に声をかけることにして、開いたままにしていた本を閉じた。
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