それからの日々②

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それからの日々②

 ~~~~~~~~  西暦3xxx年、人類は傲慢の極みから我が物顔に自然を蹂躙し尽くした挙句荒廃し、地球滅亡の危機に陥ってしまった。人類は生き残りをかけ、僅かに残った自然を利用して一体化した者、獣と一体化した者と大きく二種類に分かれた。自然と一体化した者は能力の個人差はあれど魔術または精霊を使役出来るようになり、「精霊人」と呼ばれるようになった。精霊の血が濃ければ濃いほど魔力も強く耳先が尖る傾向にあり、フルネームに精霊名であるミドルネームがついているのも特徴だ。  獣と一体化したものは……こちらもまた個人差はあるものの、その一体化した獣に準ずる身体能力と力、優れた五感、中でも野生の勘を手に入れた。彼らは「獣人族」と呼ばれ、頭に獣の耳がついていたり尻尾がついていたりする者も少なくない。1000年以上前にあった日本という国でいうところの『平成』や『令和』という時代に流行った「ファンタジーもの」に登場する『亜人』やら『ケモ耳』やらに近い感じ、と想像して頂けたらと思う。余談だが、王族や貴族は、一定基準以上の魔法が使える事が条件の一つとなっており、魔法が使えない場合はそれにとって代わる知性や一芸に秀でた何かを持つよう義務づけられている。  因みに、現時点での登場人物について言及すると……護衛騎士ラウルは狼系の獣人族、アリシアは鹿系の獣人族だ。また、後にその詳細を述べていく事とんるが、ジルベルト、ディスティ二―、アンジェラインは精霊人である。    その為、個人差はあるものの魔法を使うこと、精霊を使役する事はごく普通の感覚として人々の生活に浸透していた。科学を極め頼り過ぎて自滅、滅亡の危機を経験した人類は、科学の代わりに魔術を徹底的に研究し、インターネット機器系やテレビ、電気、ガス等の原動力を魔力で行う事となった。俗に言う『生活魔法』の発電所というものを『魔力』で行うのだ。それは『魔力発電所』と呼ばれ、王族や貴族が定期的にそこに魔力を送る事が公務の一つとなっている。そうする事により人類は、自然を破壊する事なく共存していく道を選択したのである。その最たる例が「魔法石」の販売だ。これは火にくべたり、お湯に溶かしたりする事で今でいうところの電池の代わりとなっており、特に魔法が使えなくても日常生活が送れるようになっている。  更に、人々は愚かな過去から学び、再び人類滅亡の危機に陥る事のないよう、力を合わせて「理想郷」を創造した。  その結果、地球は六つの国で成り立つ。 ☆火の力を加護に持つ「エルド王国」 ☆水の力を加護に持つ「ドゥール王国」 ☆風の力を加護に持つ「アエラス王国」 ☆大地の力加護に持つ「エールデ王国」 ☆その四つの国を統制する天空と光を統制する「シュペール帝国」 ☆そして癒し、安らぎ、闇、影、を統制する秘された国、「テネーブル小国」  この物語は、「シュペール帝国」を舞台に始まる。世界観としては、中世ヨーロッパに加えてドラゴンや魔物、妖精や魔法などのファンタジーが融合されたものに近い感じだろうか。尚、あくまで中世ヨーロッパであり、衛生管理は魔法によって徹底されているという点は付け加えておく。  ~~~~~~~~  濃厚な薔薇の香りが鼻をつき、思わず足を止めた。 「ここは……」  ジルベルトが辺りを見回すタイミングに合わせて、光の妖精たちが各々の両手に光を灯す。すると、無数の蛍が舞うように、夜の花薗を照らし出した。 「……やはり、今宵もこちらにいらしたのですね」 ラウルは遠慮がちに声をかけた。その場所は、城の裏庭に当たる場所だった。まさに色とりどりの、かつ様々な種類の薔薇が咲き誇る庭園、薔薇の園だ。通称、『|the Rose Garden of Destiny《ディスティニーの薔薇園》』と呼ばれており、かつてジルベルトの婚約者だった頃の、彼女のお気に入りの場所だった。  (よくここで、お茶会を催したり、プライベートで散策をしたり。私も二人だけの茶会に呼ばれたりしたものだ……。彼女の淹れたハーブティーは……)  思い起こすだけで、癒しの香りが甦る。庭園のあちこちに散らばる、彼女の幻影を見ながらジルベルトは答える。 「……あぁ、つい、な。無意識なんだが」」  だった場所など即刻取り壊して祭壇を立てるべし! という声が根強かったが、「花に罪はない」とジルベルトが一蹴したのだ。アンジェは「ジルベルトに従うわ」と言ってくれた。尤も、本音は取り壊して欲しそうだったのだがそこは気づかないふりをした。  ラウルはそれ以上は何も言わず、主に従うようにただ静かに待っていた。光の妖精たちが、薔薇の花々に座っておしゃべりをしたり、花から花へと飛び移ったりして自由に過ごし始めた。  ジルベルトは軽く右手を挙げた。すると光の妖精たちが一斉に両手を上に翳す。各々の妖精の両手から光線が発せられ、ジルベルトとラウルを包み込んだ。光の妖精による『簡易防音魔法』の一つだ。外側からは、光で出来たコンパクトなピラミッドにしか見えない。 「……なぁ、ラウル。は、正しかっただろうか?」  くだけた口調で話しかける。ラウルもまた表情を和らげ、姿勢を崩した。 「正しかったか間違っていたかは、個人の価値観が反映されるものですし、その時の状況や時代背景にも左右されます。ですから私は、のみですよ。それが、を主に捧げた専属護衛騎士の宿命というものですよ」  穏やかな笑みを浮かべてはいるが、彼の金色の瞳は冷めていた。 「今ここの場は、そういうはいらねーよ、ラウル」  キリリとした銀色の眉尻が、哀し気に下がる。ラウルは観念したように肩をすくめた。 「それは、ヘイデンの奴が宰相の座を辞退した時点で……分かってはいるんだろう? 本当はさ」  ほんの少しだけ罰が悪そうにラウルはこたえた。 「……狡いこたえ方だな」  ジルベルトは苦笑する。彼の立ち場上とその思慮深く慎重な性格から、彼なりに精一杯応じてくれたのを感謝しつつ。 「俺は、何度か忠告はしたぞ。それでも最後に決断したのはジル……ジルベルト、お前自身だ。俺はお前についていくと決めたから、そうするまでだ。これまでも、これからも」  ラウルはという呼び名は、何となく避けていた。件の、ジルベルトの元婚約者がそう呼んでいたからだ。それもまた、悪女断罪後のの一つとなっていた。 「あぁ、そうだな。感謝している」  その悪女、かつてジルベルトの婚約者であったディスティ二―・キアラ・フィッツロレアードを、断罪すると決定した際、最後の最後まで強く反対意見を述べた上でそれを回避しようと説得、働きかけた者も何人かいた。その一人が、ジルベルトの側近の一人、ヘイデン・マーク・クライスラーだった。ジルベルトが皇帝となった際、宰相の座を継ぐ事となっていたが、 「悪いが、お前にはついていけない」  と去って行った。もう一人は、セス・アーノルド・ブルゴー。キアラの専属護衛騎士。他にはガーデニア・グランデ、キアラの専属侍女。そしてアーサー・べルボン、密偵や諜報、暗殺、影の護衛など、皇族の影を担う暗部を担当していた。彼らは、キアラの断罪が決まった時点で去る事を決めた者たちだった。
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