序章

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序章

紅炎が、広大で華麗な宮殿を飲み込んでいく。 敷地面積700ヘクタールと広大な敷地に、黄金の彫刻が施されている噴水が150個、宮殿は世界一の大きさを誇る。 内部は部屋数500以上、廊下や壁全てが大理石でできており、いくつものシャンデリアがその大理石と呼応して宮殿内全体を光り輝かせる。 その、華麗な宮殿が燃え盛る様を、少し離れた丘から少女を挟んで10代半ばの少年達が見下ろしている。 「なぜこんな事を、ルイーゼ!!」 少女は、小柄な身体を更に縮めるように震えながらも、手は強く握り、宮殿を見下ろす。 「メイ、こうするしかお前達を自由にしてやれる事ができなかったからな」 ルイーゼと呼ばれた、長身でこの国では上等な宮殿服に身を包む少年がメイの細く小さな震える拳に自身の手を添える。 「本当に、お前はお人好しのバカだな、ルイーゼ。なんで俺とメイの為に、、、」 簡素な服を身にまとったガタイのいい少年が、ルイーゼを睨む。 「レナード、分かっているだろ?俺はメイを愛している。そして、お前は私の大切な親友だ」 「俺とメイは、お前に決してそばを離れず裏切らないと忠誠を誓った。俺達だけではない!アルバーノ、ギルバート、クルト、レオン皆お前を、、、だからこんな事ーー」 ルイーゼは、清潭な顔立ちをふと歪まし、首を振る。 「だからだ。王として、私はお前達を守りたいと思ったんだ。こんな愚かで弱い私に忠誠を誓ってくれた。それだけで十分だ」 メイは、悲しげにルイーゼを見上げる。 「ルイーゼ、、、」 哀愁に満ちたルイーゼの表情に、メイはさめざめと泣く。 ルイーゼは、メイを見下ろながら、これでいいんだと自身も噛み締めるように頷く。 メイの握りしめる手を緩め、自身の指と絡ませるように握り直す。 「メイ。泣かないで。私は、君のその涙に弱いんだ。私の決心をどうか揺るがせないで」 メイは、我慢できないというかのように、ルイーゼの胸に飛び込む。 「ルイーゼ、、、私、、、貴方を、愛してる、、 、だから、、、貴方も一緒に逃げて、お願い、ずっとあなたの傍にいたいの」 この時初めてメイに「愛している」と言われた。 何年もかかってようやく、思いが通じた。 メイの言葉に、想いにルイーゼは胸いっぱいになる。 メイの華奢で小さな身体をぎゅうっと抱きしめる。 愛おしい、失いたくない。離れたくはない。 だがーー。 「それは出来ない」 ルイーゼは、ゆっくり目を閉じ、メイへの思いを断ち切る。 (愛しい人には幸せになって欲しい。その為の王だ。その為に私は存在価値があるのだ) ゆっくり目を開けた時には凛とした王の顔になり、メイを自身の身体から突き放す。 「私はこのカルデカ国の王だ。私は1人でも戦う。さぁ、二人共、あちらの世界へ逃げるがいい。時期に追ってが来る」 レナードは、悔しくて顔を歪ませる。 「必ず戻る!あちらの世界にいる仲間と共にお前の元に必ず戻る!約束だ、ルイーゼ」 ルイーゼにそう言い、メイの腕を掴み先を急ごうと引き寄せる。 メイは後ろ髪を引かれるように、ルイーゼの方を何度も向きながら、レナードと共に森林の奥へと走り去って行った。 レナード達が見えなくなると、凛とした表情で、レナード達とは正反対から丘を下っていく。 すると、銃や剣など武器を持つ何十もの兵士達が松明をかざしながら、丘を駆け上ってくる。 ルイーゼと対峙すると、兵士達は少し距離を起き、 銃や剣を構える。 「動くな!」 先頭に立つのはこの国一の剣の使い手元帥のアドルフ。ルイーゼよりふた周り大きく、ガタイがいい。 ルイーゼは、両手を上げて大人しく跪く。 「ふふふっ、惨めな王ルイーゼ」 アドルフの背後から、ルイーゼと同様に身なりが良い青年が嘲笑いながら現れる。 ルイーゼはその青年を見上げる。 (やはりお前だったのかーーー) 「何故こんな事をしたのだ!」 ルイーゼは怒りと悲しみを堪えながらも、声を荒らげる。 「ふふふっ、何故かだって?それはお前がーーーーーーーーーーーーーーーからだ」 その言葉を聞いて、ルイーゼはショックでただ呆然となり、そしてつーっと涙を流した。 その様をみて、青年はニヤリと嫌味たらしく口角を上げると、アドルフに「ひっ捕らえよ」と一言耳打ちする。 そして、この国でたった5つしか無い、王への忠誠を誓う蒼き勲章を、胸元から引きちぎる。 冷酷な眼差しをルイーゼに向けながら、その蒼き勲章をルイーゼに投げつけた後、ゆっくり丘を下りていった。 ルイーゼは、その引きちぎられた蒼き勲章を震える手で握りしめる。そして、天を仰ぎ泣き叫んだ。 ((レナード、メイ、私の元にはもう戻るな、、、私への忠誠は忘れてくれ。私の事を、この国の事を、この世界を、、、全て忘れてくれ)) レナードとメイは、森林の奥深くへと走る。月の光の照らしで、薄ら見える道をただひたすら真っ直ぐ走り続ける。 一時間以上走り続けると、大きな崖が見えてきた。 崖の端まで息を切らしながらたどり着き、二人は息を整える。 二人が崖の底を覗き込むと、それはどこまで続くか分からない、漆黒の闇に包まれている。 「ここが、あちらとこちらを繋ぐ「エイドの暗境」か。まるで地獄の底に繋がっているようだ」 「そうね、レナード」 ルイーゼは、あちらの世界へ行き、身を隠せと逃がしてくれた。 (俺達は必ず戻る。あちらの世界にいる仲間を連れて必ずーお前と共に戦う為に必ずー例え、俺達の両親を殺した王の息子だとしても、お前は俺の親友だ) 背後から何十人もの兵士達の気配がする。 「見つけたぞ!こっちだ!」 松明の光で辺りが明るくなったその時、レナードはメイの手を引いて抱きしめる。そして、エイドの暗境にメイと共に身を投げた。 奈落の底に落ちていくと、鼓膜が破れそうな程の大きな風音が鳴り響く。 それと同時に漆黒の闇に吸い込まれていく身体は、これまで感じた事の無いくらいの冷気を感じ、肌に刺さるようで身体中が痛い。 (ーー死なないでーールイーゼ。必ず私達が貴方をーー助けるからーーー) メイはそっと涙を流しながら意識を手放した。
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