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スマホは自分のものに似ていた。気圧されて戸惑っていると、男が薄く微笑み「どうぞ」と言ってスマホを差し出した。落ちついた穏やかな笑みだ。
が、何か怖い。自然と畏敬の念を抱いてしまうようなオーラを感じ取り、妙に緊張する。野生の狼を彷彿とさせる、何かを感じる。
この人、カタギじゃなかったらどうしよ、と内心びびりつつ「どうも」と言って受け取った。スマホは間違いなく自分のものだった。
「これ、俺のです! ありがとうございました」
こんなにすぐ見つかるなんて今日は運がいい。ホッと胸をなで下ろす。
「スマホ、バルに置いてあったんですよ」
「バル?」
「黒瀬様、見つかってよかったですね」
フロントの中年女性が朗らかに言った瞬間、イケメンの眉間に皺が寄った。
「黒瀬? お客様が、黒瀬様?」
「え? は、はい」
「普段から眼鏡、かけてるのか?」
「あ、いや、今日はその……たまたま」
「前はかけてなかったもんな。ちょっとその眼鏡、外してみてくれ」
前は? なんだ? どういうことだ?
わけがわからないまま黒縁の眼鏡を外す。
怜央は鼻梁が高く、クールで精悍な面立ちをしている。クール過ぎるせいで愛想が悪い、いつも不機嫌そうだとよく言われていた。
親や仲のいい友人は、かっこいいのだからもっと笑えばモテるはずだと言う。しかし23年間生きているうちに、気づいたら無愛想な顔になってしまったのだ。簡単に愛想のいい人相にはなれない。
男が顎に手を添え、神妙な面持ちで怜央に迫った。まじまじと見つめられた怜央は気まずくなって顔を逸らす。
ち、近い。この人、イケメン過ぎて怖いっての。
ほんとに同じ人間か? 二次元キャラかも、と思っていると、男が柔らかく目を細めた。思いのほか親しみを感じさせる、魅力的な笑顔である。
「なるほど、怜央だ。久しぶりだな、元気だったか?」
口調も優しい。年齢は三十代だろうか。
なんだ、案外いい人そうだな、と安心したが、男の顔に見覚えはない。これほどのイケメンを忘れたりはしないだろう。
「あの……どこかでお会いしましたっけ」
そう言うと、男が大きく目を見開いて怜央の両肩を掴んだ。
「はあ!? おいおい、なんで覚えてないんだよ!」
ぐらぐらと揺すられる。
「な、なんでと言われましても」
怜央は額に冷や汗をかき、揺れながら眼鏡をかけ直した。怖い。やっぱりカタギじゃないかもしれない。
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