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「今日は連泊するお客様のために、安居渓谷の観光ツアーをやるんだ。俺が車で渓谷の名所を案内するんだが、よければ参加しないか? ゆうべバルで会ったお客様も参加するぞ。怜央はあの二人を追ってるんだろ?」 「な、なんでわかったんですか?」  なんでもお見通しなのかと驚く。 「仕事は不倫調査と迷子のペット探しばかりだと言ってたよな。仕事で東京からペットを探しにくるはずがない。てことは、東京から来たお客様の不倫調査に来たわけだ。で、今日のお客様の中でそれらしい男女のカップルはあの二人だけ。となれば答えはおのずと一つ」  やはりお見通しらしい。怜央は溜息をついた。 「ツアー、参加させてください」 「わかった。後で連絡するよ」 「お願いします。それと、あの……」  顔を赤らめ、ペコリと頭を下げて「除霊、ありがとうございました」と言った。どんなに恥ずかしくても助けてもらったのだから、礼は言っておかなければ。  龍牙が嬉しげに目を細めた。 「いや、思いがけず楽しい除霊だったよ。じゃ、また後でな」  軽く手を振って休憩所を出て行く後ろ姿を見送った後、怜央はもう一度風呂に入って汗を流した。  除霊のためとは言え、男のイチモツを擦るとは、龍牙はすごい霊媒師だと感心する。霊媒師として、何がなんでも除霊するぞという気概を感じた。楽しい除霊だったと言ったのは、気まずい空気にならないよう気づかってのことだろう。  でも、この後も一緒に行動するのは気まずいなぁ。  愉悦を感じていたことに気づかれていたはず。しかし仕事はさぼりたくない。いつまで探偵を続けるかはわからないけれど、仕事に手を抜くつもりはないのだ。夫に不倫されて落ち込んでいた依頼人のために、しっかりと調査しなければ。
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