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 その後は龍牙が旅館のバンを運転して、ツアー客に安居渓谷を案内した。服装は着流しからストライプ柄のシャツと黒のパンツにチェンジしている。洋服姿もやはりかっこいい。  一行は名所で下車をして観光後、また車に乗って次の名所へ移動した。昼食は旅館が用意してくれた弁当を、皆で談笑しながら食べた。渓流が見下ろせる広場で弁当を食べるなんて、遠足みたいで少し楽しい。  倉田と奈菜はバンの中でも屋外でも、人目をはばからず、ずっと手を繋いでイチャついていた。おかげで証拠写真を撮り放題。眼鏡の小型カメラを使わなくても、風景を撮る振りをして、スマホで堂々と二人の様子を撮影できる。鬱陶しいだて眼鏡を外せて気分的に楽だ。  ツアーに参加できたおかげで今回の調査はすこぶる順調。龍牙には感謝しかない。  怜央は隙を見てこっそり、龍牙の写真も撮った。大自然の中、髪をなびかせて凜と佇む横顔、食事中のリラックスした笑顔。何かと気づかってくれる優しさ。  全てが魅力的で目が離せない。だけど朝から手淫されたことはやはり恥ずかしく、話しかけられても適当に返事をして距離を取った。大きな手で擦られた記憶がまざまざと蘇り、うっかりするとまた勃起しそうになって困る。  やっぱり、気まずいって。  しかし初恋の人に手淫されるとは夢にも思わなかった。初めて龍牙に恋をした9歳の頃、怜央は祖母にはなんでも正直に話す、素直な子どもだった。だから正直に、霊媒師さんを好きになった、恋をしたと打ち明けた。  祖母は優しく微笑み「どうしても好きやったら、告白してみいや」と言った。  ──どうしても好きなら、告白してごらん。  そう言われたが、告白できないまま、夏休みが終わる頃に東京へ戻った。告白なんて恥ずかしいし、大人の男に告白しても、どうせ相手にされないとわかっていたから。  今はどうだろう。今の自分なら少しは望みがあるだろうか。  うーん、多分、ない。  手淫はあくまでも除霊のため。怜央に好意があるからではない、と思う。行為の後、結構淡々としていたし。残念ながら恋愛的な感情があるとは思えなかった。  それって結構、落ち込むよな……。  でも落ち込むってことは、俺の中に龍牙さんへの恋愛感情があるってこと?     俺は初恋の人をまた好きになってるのか?
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