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「でも貴重な一週間を使って、海外旅行へ行ったりするぞ。フランスでワインを飲み明かしたり、ドイツで地元の人とビールを飲み比べたり。制約はあるけど楽しんでるよ」 「の、飲み歩いてますね」 「天狗は日本中にいる。山陰にもいるし、東北や九州にもいる。俺は四国の高知で地酒を愛する、天狗なんだ」  怜央はどう反応していいのかわからない。 「じゃあ、龍牙さんは人間じゃないってことですか?」 「そうだ。冗談だと思ってるだろ?」 「そりゃまあ。だって、どこから見ても普通の人間だし」  着流し姿の彼をまじまじと眺めたが、モデルのような体躯だなと惚れ惚れするだけ。霊媒師としての力はすごいと思うけれど、人間じゃないなんて信じられない。 「基本的には普通の人間だよ。天狗モードのときは、ちょっと派手になるかな。髪が伸びて色が変わる」  言われてハッとした。  確かに、怜央が9歳のときに会った龍牙は白金(プラチナ)色の長髪だった。爪も長く、金色だった。 「天狗モードになるときは、霊媒師の仕事をするときが多いんだ」 「で、でも、今朝は普通でしたよね?」  霊媒師として除霊をしたが、龍牙の姿は今のままだった。 「突然天狗モードに変身したら怜央がびっくりするだろ? びびって萎んだら、出るものが出ない」  龍牙の視線が怜央の股間に落ちる。怜央は手淫を思い出して、かあっと顔を赤らめた。思わず股間を手で隠す。 「つ、つまり、外見は自分でコントロールできると」 「そういうことだ。ただ、強い妖力を使うときは必ず天狗モードになる。とまあ、これが俺の話なんだけど……正直、どう思った?」  興味深そうに顔を覗き込まれ、怜央は戸惑って視線を彷徨わせた。 「どうって……。ファンタジー過ぎて理解が追いつかないっす」 「そうか。仕方ないよな」  龍牙はさっぱりと笑んだ。すんなり理解されるはずがないと思っていたのだろう。 「すみません……」 「いや、いいんだ。……さて、そろそろ」  そう言って彼が、ランプを操作して灯りを消す。  途端に、辺りが暗闇に包まれた。都会と違って山奥の夜は闇が濃い。自分の手元さえも見えなくなり、川のせせらぎがやけに大きく聞こえ始めた。急激に怖くなる。 「龍牙さん? 暗くて何も見えないんですけど」 「目が慣れてきたら見えるよ。ほら」
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