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目の前を小さな光りが横切った。「わっ……」と声を上げた直後、音もなく無数の星が周囲で舞い踊った。蛍の群衆だ。
「すごい……! 綺麗だ!」
か細い光りを放つ蛍が縦横無尽に舞う。まるで星空の中に自分が浮かんでいるような錯覚を覚え、感動で胸が熱くなった。
「怜央、上を見てごらん」
龍牙に肩を抱かれて天を仰ぐと、満天の星空が目に飛び込んできた。手を伸ばせば掴めそうなほど星が迫ってくる。空も周囲も星の海。どこを見ても壮大で、自然の美しさにただただ心を奪われた。
「こんなの、初めて見た……」
「田舎には何もないって言う人もいるけど、こんな景色もある。田舎も悪くないと思わないか?」
「そうですね。俺、田舎好きですよ。キヨ婆ちゃんが生きてるとき、本気で移住を考えたし。でも移住する前に、婆ちゃんは星になってしまいました」
キヨ婆ちゃん、空から見守ってくれてるかな……。
祖母の優しい笑顔を思い出すと胸があたたかくなる。
「怜央は、本当に優しいな。情が深いよ」
「べ、別にそんなことは」
首を横に振ると、肩を抱く龍牙の手に力がこもった。ぐっと引き寄せられて彼の体にぴたりと添う格好となり、怜央の胸がドキドキと高鳴る。
龍牙さん、今夜はやけに肩を抱いてくれるけど、なんでだろ。マジで期待していいのかな。
恐る恐る彼の顔を見上げると、至近距離で目が合った。
「なあ、怜央」
「は、はい」
「俺は怜央が好きだ。つき合ってほしい」
龍牙がにこやかに笑む。
「つき合う? ん? どこにですか?」
「そのつき合うじゃないよ。結婚を前提に、俺とつき合ってほしいんだ」
んん? 結婚、を前提?
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