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「う、うまっ」
思わず声が出た。
「おう、うまいな。特に今日みたいな、ちょっと蒸し暑い日はこれに限る」
「マジで最高っすね」
すぐに二口目を口に含んだ。一気に飲み干してしまいたくなるほど美味しい。
「でも今夜の酒がうまい一番の理由は、怜央に再会できたからだな。ほんとに会いたかったんだぞ。また会えて嬉しいよ、怜央」
甘いセリフと笑顔のセットは強烈にセクシーで魅力的。怜央はブハッと酒を吹き出しそうになり、無理矢理口を閉じた。吹き出すなんてもったいない。ゴクンと飲み込んで息を吐き出す。
「な、何を言ってるんですか! 吹くところでしたよ」
「正直な気持ちを伝えただけなんだけどなぁ」
「からかわないでくださいっ」
焦りが治まらず、また酒をあおった。
「おいおい、あんまり急ぐな。前菜を食べながら飲むのがうまいんだからな」
「は、はい、すんません」
「ちょっと待ってろよ?」
龍牙が冷蔵庫から赤身の魚の冊を取り出し、慣れた手つきで薄く切り始めた。薄切りの玉ねぎやトマト、大葉と合わせてガラスの皿に盛りつけ、あっという間に一品仕上げる。
「カツオのカルパッチョだ。カツオは今朝、高知の海で水揚げされたものだよ。醤油を使った和風ソースだからな。お箸でどうぞ」
「いただきます」
フォークとナイフは使い慣れていないので、箸で食べられるのはありがたい。
「んっ……!」
鮮度抜群だからだろう。カツオは生臭さが全くなく、甘みとうまみが口中に溢れるほど広がった。続けて日本酒を口に含むと、酒がさらに美味しく感じた。
「うわっ、うまい! たまんないな!」
じーんと食の喜びを噛みしめる。龍牙が嬉しそうに笑んだ。
「次は自家製の豆腐だ。濃厚でうまいぞ」
「自家製って、聞いただけで美味しそうですね。龍牙さんは副社長兼、料理人なんですか?」
「いや、普段は副社長の仕事だけだ。料理は趣味だよ。気が向いたときにここで厨房に立ってる。怜央は、探偵の仕事をしてるんだろ?」
「え……」
ドキリとした。
他人の秘密を多く抱える仕事柄、職業を知られると余計な詮索をされることがある。だから探偵業については普段、簡単には人に明かさないようにしている。それなのに、なぜ知っているのだろう。不安になって箸を止める。
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