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――――パックス・ブリタニカ。
古代ローマ帝国支配下の安定を表現する『ローマの平和』になぞらえて、繁栄を謳歌するイギリスを称えた標語だ。
そう確かに、イギリスはこれまで産業力・技術力・軍事力、どれをとっても
他のヨーロッパ諸国より一歩抜きんでていた。
しかし、1873年に起きた<大不況>から、すべての歯車が徐々に狂い始めた。
産業構造の変化。斜陽の兆しを示し始めていた当時のイギリス――現在もだが――は、大きな曲がり角を迎える。それまでの製造業に基盤をおく製品輸出国から、資本輸出から得られる利子や配当といった貿易外収支に重きを置く、金融の中心国になることで、国際競争力を維持しようとしたのだ。
結果は半分成功、半分失敗といったところだろう。ひとまず覇権国としての地位は脅かされずに済んだ。だが、金融が生み出す雇用は製造業に比べてはるかに小さく、労働者階級の生活に深刻な打撃を与え、格差を生み、多くの者を貧困という名の奈落に突き落とした。
最終的に産業技術は停滞。
ヨーロッパおよび北米の市場をドイツ・合衆国に奪われた。
世紀末の影が太陽を覆う。
全ての前提は世界的経済大恐慌によって破壊された。
競争はいま、振り出しに戻りつつある――――。
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