From hell, with love

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「国家はこれから、幾度となく厳しい改革を迫られるだろう。 特に国内政治に関しては。 ロンドン郊外の腐敗‥‥‥これについて、もう言い逃れはできまい」 モンロウは苦笑する。わたしは頷いて、 「”切り裂きジャック”ですね。 彼の登場はある意味、変化の象徴だった」 「そうだ。 <(ジャック)>が現れるまで、一般大衆はこの世の地獄と化していた東端区(イースト・エンド)で何人朽ち果てようが、殺されようが、大して気にも留めなかった。 人間は皆、無情の塊だ。 見たいものだけを見て、信じたいものだけを信じる」 たしかに。 ジャックが娼婦を切り刻むまで政府はロンドン郊外に広がる地獄に対して、見て見ぬふりを決め込んできた。 ヴィクトリア朝の栄華を横目に貧しい生活を強制された人々。 搾取され、溝に放り込まれ、世界からも人々からも忘れ去られた命。 ロンドンの街はすでに腐敗していた。貧困と無知によって。 この国の絢爛たる栄華と繁栄の裏側には、常に悪辣な搾取と恐るべき悪徳が存在している。 ジャックは所詮、ただのきっかけに過ぎない。 東部ではいつだって、誰かが死んでいる。朽ち果てている。 過密で不衛生な環境の中、声にならない叫びをあげ、助けを求めながら。 ジャックに殺された娼婦たち(カノニカル・ファイブ)だけが特別じゃない。
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