From hell, with love

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「ホワイトチャペル殺人事件(マーダーズ)から1ヶ月、イースト・エンドの住民の苛立ちと恐怖はピークに達している。いまや地元の自警団による魔女狩りならぬ”リッパ—狩り”は苛烈を極め、時には人気のない夜道を歩いていたり、人相書に似ていてユダヤ人だというだけで、『恐ろしい人殺し(ホリプル・マーダー)だ』と問答無用に決めつけ、暴行を働く始末だ」 お決まりの展開だ。 見えない影におびえる民衆。彼らの不満や恐怖を解消すべき警察は5度にわたり犯人の追跡に失敗し、惨劇を許してしまった。 東部におけるロンドン警視庁(ヤード)とシティ警察の信頼は地に落ちたと言っていい。 「代償を支払う時がきたのだろう」 モンロウはそう呟くと、椅子の背もたれに体を預ける。 その時、扉をノックする音が室内に響いた。 「失礼」 ティーカップとポットをトレイに乗せたエリザが入室し、わたしたちの机に堂々と置く。 「ちょうどいいな」 鮮やかな色の絵付きのものだった。中からは、フルーティーかつ、華やかな香りが漂っている。 「美味しいよ、お世辞抜きで。 どうもありがとう」 「いえ」 彼女は相変わらず、無機質だった。素直に感謝の気持ちを伝えても、その顔に表情と生気が戻ることはない。 精巧に作り込まれた模型のような顔。その中で本来持っている機能を果たしているのは薄い鋭角的な唇だけ。残りのパーツは乾ききり、塑像のように冷たく凍り付いたままだ。
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