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Chapter1
――――12月。
無限の静寂が全てを支配するロンドンの夜を死人の眼のような色をした煙霧が、音もなくゆっくりと覆い始める。
御者が舌打ちをした。
纏わりつくような不快感と嫌悪感から構成されるじめじめとした空気。
工場の煙突から吐き出される毒素を含む乾いた微粒子は地表から沸き上がった濃密な夜霧と融合し、この複雑な袋小路に迷い込んだ者の不安と恐怖を煽る。
ぼんやりとした霞の景色の中に浮かぶ塔。
人気のない通りに悲し気な光をそえる瓦斯灯。
辻馬車に揺られながら、わたしは胸部を刺激する陰鬱な圧迫感が自分の中で次第に強まっていくのを感じていた。
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