17人が本棚に入れています
本棚に追加
*
一面に暗い闇が広がる廊下を再び、エリザの先導のもと歩く。
連鎖的に灯されていく瓦斯灯の炎が、わたしたちの先に延びていき、
一歩先にある暗闇の中でなまめかしく踊っている。
「世界同時不況と国内政治の悪化に伴う大英帝国の衰退、世界秩序をめぐる覇権争いの激化。 これらの混乱に乗じて、よからぬ企みを胸に乗り込んできた連中がいる‥‥‥何だと思う、博士」
モンロウは暗闇のなか、薄い刃のような笑みを浮かべて言った。
わたしは肩をすくめて、
「さあ。 無政府主義者とか」
「いいえ、博士。 彼らじゃない。 もっと規模が大きくて、古いものよ」
先ほどまでこちらを見向きもしなかったエリザが、唐突に振り返って言った。
手にしたランプの灯りが血の気のない青白い顔の半分を照らし、半分に影を落としている。
天使と悪魔が混在したかのような表情。わたしは息を呑む。
エリザは澄んだ瞳で覗き込むように軽く首を傾げ、わたしを斜めに見ながら、
「啓明結社よ。 バヴァリアの影なき生者たち」
「啓明結社――――」
「そう。 彼らの目的は、”完璧な社会脳”を持つ人間を作り出すこと」
「馬鹿げてる」
最初のコメントを投稿しよう!