From hell, with love

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* 一面に暗い闇が広がる廊下を再び、エリザの先導のもと歩く。 連鎖的に灯されていく瓦斯灯の炎が、わたしたちの先に延びていき、 一歩先にある暗闇の中でなまめかしく踊っている。 「世界同時不況と国内政治の悪化に伴う大英帝国の衰退、世界秩序をめぐる覇権争い(ゲーム)の激化。 これらの混乱に乗じて、よからぬ企みを胸に乗り込んできた連中がいる‥‥‥何だと思う、博士」 モンロウは暗闇のなか、薄い刃のような笑みを浮かべて言った。 わたしは肩をすくめて、 「さあ。 無政府主義者(アナーキスト)とか」 「いいえ、博士。 彼らじゃない。 もっと規模が大きくて、古いものよ」 先ほどまでこちらを見向きもしなかったエリザが、唐突に振り返って言った。 手にしたランプの灯りが血の気のない青白い顔の半分を照らし、半分に影を落としている。 天使と悪魔が混在したかのような表情。わたしは息を呑む。 エリザは澄んだ瞳で覗き込むように軽く首を傾げ、わたしを斜めに見ながら、 「啓明結社よ。 バヴァリアの影なき生者(スプーク)たち」 「啓明結社――――」 「そう。 彼らの目的は、”完璧な社会脳”を持つ人間を作り出すこと」 「馬鹿げてる」
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