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嫌な夜だ。
現在、秩序と堕落が同居する大英帝国の首都――――霧の街、ロンドンは一つの大きな恐怖に晒されている。
切り裂きジャック。
東端区に突如として出現した狂気の怪物。
混沌と死の代理人。
ロンドンの下町に住む者でその名を知らぬ者はいない。
かの者の出没するところ、瞬く間に血の海が形成され、汚れた臓物の腐臭が漂う。
その時、堕落した者たちは気付くのだ。殺戮の神髄は此処にあり、と。
正体不明の悪魔は今年の夏の終わりから晩秋にかけて、少なくとも5人の女性を常軌を逸した方法で惨殺している。
切り刻まれた5人は娼婦だった。被害者はいずれも最初に咽喉を大きく切り裂かれた後、好き放題ズタズタに”解剖”され、ある者は身体の一部を持ち去られている。
左腎臓、子宮、膀胱、心臓。
犯人は漆黒の闇と灰色の厚い夜霧のなか、練達した外科医が舌を巻くほどの素早さで一連の凶行を完遂していた。
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