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これが日常だ。
これが世界に、愛に見限られた者たちが行きつく都会悪の巣窟だ。
ジャックはその地獄のような地区に突如として現れ、凶刃を振るいその残虐性を世間にとどろかせた。
それによって、これまで無視されてきたイギリスの悪辣な搾取と貧困からなる暗闇は思わぬ形で暴露され、世界中の人々の注目を浴びることとなった。
そう、ジャックが切り裂いたのはこの時代そのものだった。娼婦たちの死によって、奇しくもヴィクトリア朝は断罪されたのだ。
ジャックの存在はおそらく、後世に語り継がれるだろう。彼がロンドンで繰り広げた一連の”殺戮劇”はすでに物語になっている。
人間という存在は、物理的肉体であると同時に語り継がれる物語でもある。
このわたしを含め誰かがジャックの存在を、凶行の跡を物語として語り続ける限り、この2ケ月の間に刻まれた苦しみと恐怖がロンドンの人々の記憶から消え去ることは決してない。
*
馬車はコヴェント・ガーデンの高級住宅街を抜け、ニールストリート沿いのやや寂れた赤レンガの古い建物の前で止まる。
よくある普通のタウンハウスだ。とくに高級というわけではない。グレードはそこそこ。この辺りの建物は墓石のようにどれも似通っている。
わたしは辻馬車を降り、扉の前に立つ。
重そうな金属製の扉。ふと、その上部の壁に銅でできたプレートが埋め込んであるのを見つける。
「シティ・オブ・モンロー商会‥‥‥金融会社か」
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