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大理石の床を靴音を響かせながら、案内役だという女の後について歩く。
薄暗く人気のない廊下。左右の壁に等間隔で配置された角灯が照り、幽霊のような細長い不気味な影をつくっている。
前を行くエリザが不意に立ち止まる。
目の前に昇降機の扉が現れたのだ。8年前、ドイツが開発したものをオーストリアやアメリカが改良し、加速度制御などの機能を新たに追加した最新式。
「どうぞ」
エリザに促され、中に入る。その後に彼女が続き、レバーを操作して扉を閉めた。
一瞬、体が重力から解放される。リフトがゆっくりと上昇しはじめたのだ。
わたしは先ほどから気になっていることを尋ねる。
「この建物の中は外観からは想像できないほど、複雑に入り組んでいますね。 あなたが案内役でよかった」
昇降機に乗るまでの道のり。
薄暗く、地図のようなものは何処にも張り出されていなかった。
一度迷い込んだら二度と出られないほど、錯綜を極めた通路群。エリザが先導してくれたからよかったものの、一人だったら確実に暗闇の中を永久に彷徨うことになっていただろう。
クレタ王が牛頭人身の怪物ミノタウロスを閉じ込めるべく、工匠ダイダロスに命じて作らせたという迷宮ラビリントス。あれはまさにそれを彷彿とさせる異常な造りをしていた。
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