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心を強くするスプレー 前編
堕天使ベリアルの血を受け継ぐ美しい小悪魔ベリアラ。彼女は退屈しのぎに人間界へと降りてきた。契約者を求めて……。
気の弱いタエコは小学一年生の息子を持つママだ。ボスママのヨウコには逆らえない。大人しく事なかれ主義で生きていた。
ある日、担任の先生から電話があった。息子がボスママのヨウコの息子と喧嘩をしたとのこと。ヨウコの息子はかすり傷だが怪我をしたらしい。そのことでヨウコはブチ切れているらしかった。
「喧嘩ですが、相手は怪我をしてしまいました。お母様が激怒されております。つきましては先方に謝っていただきたいのですが…」
担任のハルコ先生もボスママには逆らえないようだった。
「なんてことしてくれたのよっ!」
タエコは息子を怒鳴りつけた。
「どうしよう…どうしたらいいの…どうしよう…」
タエコは慌てふためいた。気づけば涙を流している。
「喧嘩だろ? イジメじゃなきゃ一方だけが悪いってこともないだろ」
タエコは驚いた。目の前に美しい女性が立っている。いつの間にどこから来たのかわからなかった。
「あなたは誰ですか? なぜここにいるの?」
「あたしはベリアラ。天使だよ。細かいことはいいじゃない」
「天使? じゃあ、教えてください…わたしはどうすればいいの? 相手はボスママなのよ? 孤立させられてしまうわ…終わりよ」
タエコは頭を抱えていた。
「なら、あたしと契約する? 助けてあげるよ」
ベリアラは言う。無表情に。タエコは一瞬間を置いて言った。
「助けてください」
するとベリアラは一本のスプレー缶を渡してきた。
「これは心を強くするスプレーだ。これをふりかければボスママなんかに負けやしない。堂々としていられるさ。」
タエコは手に持つスプレー缶とベリアラを交互に見た。希望の光が見えた気がした。
「ただし…」
ベリアラはまた無表情に続ける。
「これは悪用してはならない。そして、全てを使い切ってはいけない。約束を破るとどうなるか…」
ニヤリと口だけ笑ってベリアラは消えた。タエコは半信半疑だったが、とりあえずスプレーを自分にかけた。なぜだろう、さっきまであれだけボスママのヨウコに怯えていたのに今では全く感じない。そして、タエコは冷静に息子に詳しく事のいきさつを聞いた。本当に他愛のない喧嘩だった。しかも先に叩いてきたのは向こうの方だった。仕返しに押したら倒れて運悪く腕にかすり傷ができたらしかった。タエコは息子に言った。
「あなただけが悪いわけじゃないわ。だけど相手は怪我をしてしまったの。一緒に謝りに行きましょう。そして、喧嘩はお互いに悪いからどっちもごめんなさいして終わりにしましょうね」
いつもと違う母親の言動に息子は驚いたが「うん」とうなずいて、2人してヨウコの家に行った。
「よくもっ! よくも大事な息子に怪我させてくれなわね! どうしてくれるの? どうするつもり? あなた、タダで済むと思ってるの?…」
ヨウコはものすごい剣幕でまくし立ててくる。いつものタエコなら泣きながら土下座して謝り続けるところだろう。でも、その日のタエコは違った。
「ヨウコさん! ちょっと落ち着いてください! まずは話しをさせてくださいよ」
冷静に話すタエコにヨウコも驚き、黙った。タエコは全くひるむことなく怪我をさせたことへの謝罪をし、喧嘩の理由を淡々と話した。喧嘩は両成敗、どちらにも非があるのだと。お互いに謝って解決としましょう、と。何かを言いかけたヨウコをさえぎり、
「男の子同士の喧嘩なんて今後もあることでしょう。親が必要以上にしゃしゃり出て大事にはしたくないですよねぇ!」
タエコはヨウコから目線を外すことなく言い切った。いつもと全く違うタエコの様子にヨウコは言葉を失い、タエコの言う通りにした。問題は解決したのだった。
続く
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