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第三話 標(しるべ)
「…………」
サマエルは何も言わず、空を見上げていた。それを、偶然通り掛かったアズラエルが見ていた。
「……ん? サマエル……?」
「…………」
「……サマエル!」
「……?」
自分を呼ぶアズラエルの声に振り返るサマエル。
「アズラエル……どうした? 何か用か?」
「ああ、いや。用ってわけじゃ無いんだけど、ぼーっとしてるように見えたから」
「……そうか」
「うん」
「……」
「……」
二人の間を沈黙が走る。別に珍しくも無い、よくある事だ。
「……イブリースが」
「ん?」
「イブリースが軟禁状態に置かれるそうだ」
「だろうな。この状況で自由にしておくのはいくらなんでも自殺行為過ぎる」
「うん。とりあえず、しばらくは外出も禁止するらしい」
「ああ」
「……少なくとも、この状況が落ち着くまでは天界から出さないらしい」
「当たり前だろう。下手しなくても相手の戦力を増強しかねない」
「まあ、そうだな」
「……何か言いたいことでもあるのか」
「……」
サマエルの言葉にアズラエルは俯く。
「……イブリースが」
「……」
「……先日、イブリースが脱走を図ろうとしていた」
「……そうか」
「……やっぱり」
「ん?」
「……イブリースは、神への復讐を諦めてないのかな」
そう呟くアズラエルの身体と声は震えている。
「……諦めてたら、脱走図って向こうに合流しようとしないだろう」
「……そ、か……」
小さく返すとアズラエルはその場にへたり混んでしまった。アズラエルの顔は、サマエルからは見えない。だがどんな表情をしているか、想像はついた。
「……そうだよな。そもそも、そんな事……そん、な……こと……!」
「……」
「……サマエル。私は、どうすればいいんだろうな」
「私に聞くかそれ?」
サマエルの言葉にアズラエルは小さく笑う。
「……君は、強いよな」
「どこがだよ。私は私にできることだけを常にやってるだけだ。下向いてる暇もありゃしない。がむしゃらにやってるだけだ。……いつも、間違えてばかりだ」
サマエルの言葉を聞き、アズラエルは自身の手を握りしめた。
「……私は、守る為にも戦いたい。でも、何が正しいのか、何が間違ってるのか、分からなくて……」
「そうだな」
サマエルは黙ってぼうっと空を見上げている。アズラエルは他の誰かに弱みや泣いている所を見せたがらない。そのアズラエルが、今こうして泣いているのだ。
こんな状態のアズラエルを放ってどこかに行けるほどの冷徹さは、残念ながらサマエルには無かった。
「……答えがわかるのって、あれは後出しジャンケンみたいなものじゃないのか?」
「……」
「どれだけ答えに近づけるかじゃなく、どれだけダメージを軽減できるか。それが、結果的に望む答えに一番近づけると思う」
「……ダメージ……」
「どっちにしろ傷は負うんだ。なら傷は少ない方がいい。どれ選んだってあの時ああすれば、っていう後悔は結局するんだから。それなら後腐れ無いのを選びたいだろ」
「……後悔先に立たず、って奴か」
「合ってるかは知らんがそういう事だ」
「……後悔、か」
「……」
「……サマエル、私は」
アズラエルが言葉を続けようとした時、何処からか爆発音と地震が発生した。
「っ!」
「何だ!?」
直後、あちこちから悲鳴や戦闘音が響く。
「これは……!?」
「っ……アズラエル、行くぞ!」
「え、あ、あぁ!」
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