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「ドゥルジ・ナスは虚偽や不義といったものを司る魔王だ。俺らからの書類で罪人を『不義者』と表記されてるのを見た事ある奴もいるだろう。あれはドゥルジの名前を文字ったものだ。……その名の通り、不義や虚偽を良しとし正義や真実を嫌う悪魔だ」
アシャは一度言葉を切り息を吐く。
「だが今回の出来事まで……まあギリギリな事はあったが、先日のように真っ向から協定違反を犯すような事は今まで無かった。あいつにもあいつなりのプライドとかがあるからな」
そこに、一体の天使が挙手する。
「恐れ多くも、アシャ様。よろしいでしょうか」
「ああ、どうした?」
「……お言葉ですが、その様子だとまるで先日襲撃してきたあの悪魔がドゥルジ・ナスであると認めたくないようにも聞こえるのですが」
その天使の隣の席に座っている者が慌てる。
「おい、お前……!」
「……ああ。その通りだ。俺はアイツがあんな事をするような奴ではないと良く知ってるし、信じてる」
「では、あの時あの場にいた悪魔はドゥルジ・ナスではないと?」
その言葉に、アシャは首を横に振った。
「いや。あの時あそこにいたのは紛れも無くドゥルジだ。何万年もやり合ってきたんだ、今更間違うはずが無い」
「では、何故」
「……確かにあいつは何処だろうと俺を見かけた瞬間に殺しにかかってくるような奴だ。実際何度も殺り合ってきたからな。だからこそだ。あいつは本来なら、今回のような事をする筈が無い。あいつの前で言うと睨まれるが、何だかんだ真っ向からの殴り合いを楽しむ性格だ」
「……」
「不義の悪魔ドゥルジである事を抜きにあいつ個人の事を説明すんなら……そうだな、喧嘩仲間、腐れ縁、礼儀正しく振舞ってるように見えるがその実肉体派のとんでもねー奴、とかって感じになる」
そう話すアシャの顔を見て天使は何か納得した様に小さく頷いた。
「……成程、無礼な発言をした事、深くお詫び申し上げます」
「いや。そもそもあの大勢の前にああやって出てくるなんて事しないからな、あいつは。信じられないのも無理はねえだろうよ。……だからこそ、今回の件はおかしいって思ってる」
アシャはそう言うと少し俯いた。
「とりあえず大まかな説明はこんな感じになる。あまり話を長くする必要も無いだろうからな」
「大天使アシャ・ワヒシュタ、ありがとうございます」
着席するアシャにサマエルはそう言いながら立ち上がる。
「さて、ドゥルジ・ナスがどういう悪魔か。大体分かったと思うが……では、何故やりたくもない事をやったのかが分からなくなってくる」
「……」
多くの天使が小さく唸る。ドゥルジの性格等は分かったが、今度は目的が分からなくなる。
「私は異天使としての仕事の関係でダエーワの面々と何度か会ったことがある。故にアムシャ・スプンタのメンバー程ではないが、ある程度彼らの性格ややり方は理解しているつもりだ」
そこに、ウォフ・マナフが挙手する。
「……大天使ウォフ・マナフ、何か?」
「いや。大天使サマエル、君の見解を聞く前に一つ確認してもいいかい?」
「どうぞ」
「……今から君が話すそれは、君個人のもので良いんだよね?」
「それは先程言いましたが……ええ、そうです。勿論話しても問題ない所までを。私もその辺は理解してるので」
「……そうか、ならばいい。遮って申し訳なかった、話を」
そう言うウォフ・マナフにサマエルは頷く。
「さて。私の見解だが……結論から言おう。ドゥルジは、命令されて北部軍をやったと私は思っている」
サマエルの言葉に多くの天使が動揺する。顔を顰めながらもラジエルはそれを鎮めた。
「まあ確かに動揺するだろう。そもそも、ドゥルジは悪魔と呼ばれてはいるが階級としては魔王クラスだ。それに命令出来るものなど普通は居ない」
「大天使サマエル、その口振りでは……」
ラジエルの指摘に、サマエルは頷き神妙な顔をする。
「だが、今回の事はダエーワの長、悪魔王アンリ・マンユが命じたことでは無いのは明白だ。それこそダエーワの者だけで天界に喧嘩を売るようなものになる。だがアンリ・マンユはそんな事をする程馬鹿じゃない」
「……では、10分の休憩の後にその事を説明して頂きます」
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