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第七天、大議会場付近。サマエルはエラタオルの持ってきた飲料を飲みながら自身の考えをまとめていた。
「それにしても、思っていたより口答えするものがいなくて安心しましたわ」
「ああ、毎回こうだと楽なんだがな。まあ流石にアイツらも私に嫌がらせするよりも優先すべき事は分かっているんだろう」
エラタオルの言葉にサマエルは苦い顔をしながら頷いた。
「あ、もしかしてお茶苦かったです?」
「ん? ……ああ、いや、考え事してたのが顔に出てたみたいだな。すまん」
「いえ。ミルク等が欲しかったら遠慮なく言って下さいませ」
「茶やコーヒーは少し濃くて苦いぐらいが好きなんだが……まあ、たまには甘いのも悪くは無い」
「……少し濃くて、苦いぐらいが……」
そう呟くエラタオルをサマエルはなんとも言えない目で見ていた。
「……エラタオル、どうした」
「え? あ、いえ、なんでもありませんわ!」
エラタオルが恐らく趣味に絡めて考えていたであろう事は想像にかたくないが、サマエルはそこには触れないでおくことにした。
そうしていると、ドミエルが向こうから歩いてきた。
「サマエル様、只今帰還しました」
「ドミエルか、ちょうど良かった。……あっちと連絡はとれたか?」
ドミエルは黙って首を横に振る。サマエルは僅かに目線を落として、そうか、とだけ返した。
「ですが分かったことが一つ。……ベリアルの軍が何者かの指示に従って動いています」
「……何?」
悪魔ベリアル。その名は『邪悪な者』または『無価値なもの』を意味する。大悪魔のうちの一人とされており、80の軍団を率いている。だが普段は余程の事が無い限り軍として動くことは無かった。
そもそも地獄側が一枚岩となって動く事自体まず無い。確かに強大な力を持つ大魔王はいるが、全員が共通の目的や意志を持つ訳では無い。
イブリースとその軍が実質天界の捕虜になっているにも関わらず、彼らが未だに助け出されていないことがそれを物語っている。イブリース以外の大魔王が捕まっていない事もそうだ。全員が同じ意思を持っているならイブリースに続いて天界を襲撃するはずだ。
そして、ベリアルがこれまで誰かの指示に従って動いたという報告はされていなかった。それは暗に、ベリアルがそう簡単に他者に従うタマでは無い事も示していた。
サマエルは試しにベリアルにメッセージを送る。ここしばらく連絡を取ってないが、普段ならすぐに既読が付くはずだ。
「……マジか」
ベリアルはサマエルからの連絡にはすぐに答え、なんやかんやで上手いこと食事に誘おうとメッセージを返したりする。仕事の関係とはいえ、サマエルは何度かベリアルと食事やそこから先の事をした事もある。だが、今しがた送ったメッセージに既読は付かなかった。
「……という事は……」
小さく呟くサマエルに、ドミエルは僅かに顔を顰めた。
「……他に考えられるのは『大罪魔王』。そしてその中でも特に天界に対して敵対心が強いのは……」
「……彼、ですわね」
エラタオルは新しい飲料の入った水筒をサマエルに渡しながら言った。サマエルは腕を組み唇を弄るようにしながら頷く。
「恐らくギリギリまでは自分の軍は動かさない事、そして他の派閥を支配下に起き始めている事をこちらに示しているのか……」
「しかしサマエル様、彼は……」
エラタオルの言葉に、サマエルは強く歯噛みしながら首を横に振る。
「だが、やりそうなのはあいつしかいない。……それに天界に動きを悟られずに地獄の他の派閥をある程度配下に置いてから、という動きは昨日今日でできるものじゃない。緻密に計画する必要がある」
「……となると、サバオトが先日言っていた事からしても……」
サマエルはドミエルの言葉に頷く。
「多少の差異はあれど、ほぼこれで間違いないと思う」
「サマエル様……」
「ん?」
「……本当に、いいんですの?」
「……昔やった事のツケが回ってきた、それだけの事だ。そろそろ会議が再開する。何かあったらメッセージを送ってくれ」
サマエルはそう言い残し、手をひらひらさせながら大議会場へと戻っていった。
エラタオルはサマエルの強く握りしめた手を見て、ドミエルは自身の調べた事を考え返してなんとも言えない表情をしていた。
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