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サマエルは言葉を切り、深く息を吐いてハッキリとした口調で言った。
「……私はこれを、『大魔王ルシファー』が行っていると考えている」
「ッ!」
その名前に、多くの天使達が動揺する。傲慢を司る悪魔、かつて天界の三分の一の戦力を率いて神に叛逆するという大罪を犯した魔王、悪魔や堕天使の代名詞。明けの明星ルシファー。
「ですが大天使サマエル、彼……いや、濁して言うのはもうやめましょう。ルシファーは昔、確かに地獄の最下層にある氷獄の牢に落とした筈では」
ラジエルの言葉にサマエルは、ああ、と返す。
「確かにあの時、私の手で落とした。天の頂から地の底に」
「異議あり! ルシファーを落としたのは大天使ミカエル様と聞きましたが……」
挙手した天使の方を見たのはサマエルではなくラジエルだった。
「ええ。確かに記録ではそう残ってますね。……ですが、大天使サマエルは当時ルシファーの討伐及び氷獄の牢への追放の手柄を辞退し、大天使ミカエルに譲渡しました。それらの事もラジエルの書に記録されています」
ラジエルの発言にどよめく天使達。ラジエルの書とは数多の知識を持つラジエルが書き記した書物で宇宙創世にも関わる秘密さえも記されているという。最も普段はフィルターがかけられており、ラジエル以外が読む事は出来ないのだが。
「疑うのですか? まあ別に構いませんが……」
「い、いえ、失礼しました!」
「……続けていいか?」
「はい」
「……ルシファーは確かに落とした。あの時の様子を見ていた者も、この中に幾らかはいるだろう」
サマエルのその言葉に何名かの天使は頷く。
「少なくとも、あの時行った行動を偽るのは無理がある。当時の私は今程力も権限も無いしな」
「……成程。では何故、魔王ドゥルジ・ナスがルシファーに従っていると考えているのですか?」
「憶測だが、ダエーワの面子に何か……いや、幾らドゥルジとはいえ、流石に上司を人質に取られたら従わざるを得なくなると思う」
「上司を……」
「ああ。もしそうなら、ルシファーに従ってるのはドゥルジだけじゃない。アカ・マナフ、サルワ、タローマティ、タルウィ、ザリチュもだ。確かに潰すとなればかなりの戦力が必要になる。だが自軍に吸収するのであれば上を人質にすればいい。その方が益が大きいからな」
「……その口振りからするに、アンリ・マンユは今ルシファーの手中にある状態であると」
ラジエルの言葉に、スプンタ・マンユは顔を顰めた。
「ああ。そうでもなければ、ドゥルジがわざわざルシファーに従う理由が無い。個人で何らかの約束をしているなら嫌々引く必要など無いしな」
「ふむ……。……サマエル、貴方はルシファーの目的にも目処をつけているのですか?」
「ルシファーの目的? ……そんなもの、一つに決まっている」
「神の座。それ以外にあるとは思えない」
その言葉に天使達は立ち上がり怒号を上げる。
「静粛に! ……確かにルシファーは地獄で得られるものは、どれも手にできる立ち位置と言っても良いでしょうね」
「そうだ。そしてそのルシファーが他の派閥を吸収してまで得たいものとなれば……」
「ええ。彼があそこまで執着するものは他に思い当たりませんしね。地上にあるものならば、ルシファーなら人間を誘惑した方が楽と考えるでしょう」
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