4人が本棚に入れています
本棚に追加
第一話 類火
天界、第五天、執務室。
「……あー、ようやく終わった……」
そういうと『死の天使』の長、熾天使サマエルは伸びをして机に突っ伏す。その様子を見て傍らに居た灰色の髪を持つ男、『死の天使』のNo.2のドミエルが声をかけた。
「お疲れ様です。数日に渡る激務、更に途中で入る会議。よもや貴方を指名しての討伐任務。それらを全てを完璧にこなすとは、流石です」
そういうドミエルにサマエルは顔を向けた。
「ああ、ありがとう。途中で討伐任務が入った時、名乗り出てくれたのもあったし正直お前に任せたかったんだが……なんかあいつらの態度が腹立ったんでな」
「いえ。寧ろ力になれず申し訳ありません。今思えば、あそこで奴らの首を落とせばよかったものを私は……」
「いや、それはそれで余計厄介な事になるから勘弁してくれ……」
ドミエルの純粋な忠誠心は嬉しいのだが、正直行き過ぎているようなところに関してはサマエルは所々心配になることが多かった。先日は会議中に参加していた天使がサマエルに嫌味を言った時、発言した天使を含めその場に居たサマエルを除く全員に強力な圧をかけたのだ。それも能力を使わず。
「次からは会議に同行した時は殺気を放ったりするのはやめてくれよ……。後々それが面倒事の原因になるかもしれないからな」
「……そこまで思考が至らず、申し訳ありません。しかしサマエル様が侮辱されるのは死の天使そのものを侮辱される事と同義。それ以上に、そして何より貴方が侮辱される事自体がの極み。どうか御許しを」
「まあそうかもしれんが……」
自身が舐められるのは慣れているが、確かに部下を侮辱されるのはサマエルとしても嫌だった。だがその度に一々厄介事を起こしていたらキリが無い。
何より、どこで何がどの様に作用してくるかも不安だ。ほんの些細な事から大事になっていく。サマエルは誰よりもそれを知っているし体験していた。
「と言っても基本的に馬鹿にされるのは私個人だ。死の天使はどっちかというと、まあ確かに煙たがられてはいるかもしれんが怖がられてる方だ」
「それなら尚更本末転倒です。我々は『異天使』の集まり、堕天使や罪人等で構成された者達。ですが貴方は正式な熾天使の位にありそれらを治め束ねている。我々は兎も角として、貴方は本来畏怖され敬われるべきなのです。それを奴らは……」
「ドミエル」
淡々と述べるドミエルだが、サマエルはドミエルが怒りを抱いているのを察していた。
「……失礼致しました。少々、頭に血が上り……」
「お前がそこまで思ってくれるのは素直に嬉しいよ。だがそれを無理に強制した結果トラブルが起こるのは避けたい。面倒臭がりに思えるかもしれないが……いや、実際は面倒事は嫌いだからな。事実現状維持でも何とかなってる。だからいいんだ」
「ですが……」
不服そうな雰囲気のドミエルにサマエルは微笑み、椅子から立ち上がって頭を優しく撫でた。
「何よりお前が私のためを思ってくれてる。その事実で充分だ」
「……ありがとうございます」
相変わらずの無表情だが、恐らくドミエルが喜んでいると同時に少し照れているだろう事をサマエルは分かっていた。
「まあ死の天使が舐められんのは私としても腹立つからな。少しばかり発言はしておくか」
そう言って指を鳴らし部屋のあちこちに重ねられていた書類を『空間操作』で転移させた。
「書類ならば、後程私とサバオト達で各部署に送り届けようと……」
「いやいい。ここ最近訓練の様子を見てないからな、そっちを優先したい。それにこの程度ならお咎めは無いさ」
そう言うとサマエルは悪戯っぽく笑った。
「それに、突然書類が出てきてあいつらは驚いてるだろうよ。的確に自分の所に来るべきのが来てな。ほんの少しだが、私の力を見せてやるのに良いのさ」
「……かしこまりました」
「さて、行くぞドミエル」
「は。仰せのままに」
そうして、2人は執務室を後にした。
最初のコメントを投稿しよう!