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突然の物音に、サマエルは言葉を止めた。音のした方を見ると、スプンタ・マンユが飛び出そうとしているのをウォフ・マナフとアシャが止めているのが見えた。
「スプンタ、落ち着け!」
「頼む、離してくれ……! 私は……!」
「あーもう今スラオシャに中読んでも出てかないでって言われたよねぇ!?」
「だが……!」
「如何されました!?」
アムシャ・スプンタの席に駆け寄るラジエルとサマエル。スプンタ・マンユの席には報告書と一本のビデオテープがあった。ラジエルは報告書を、サマエルはビデオテープを手に取る。
「この報告書は……。…………。……成程。今この場にいる者はそのビデオテープの中を見る必要がありそうですね」
「……これ、再生するか?」
「ええ。サマエル、お願いします」
「分かった」
サマエルはビデオテープを大議会場の上映機にセットし中を見る。
ビデオに映されたのは、何処かの牢屋の壁らしき場所だった。そして次に映されたのは、上裸で牢屋に繋がれた白い長髪の男性だった。男性は頭の上で両手を拘束されており、その身体には痛々しい傷跡や痣が出来ている。
「アンリッ!!」
スプンタ・マンユの悲痛な叫びが大会議場にこだました。
「これは……!?」
『う、く……』
ビデオを撮っているらしい者の手が男性――悪魔王アンリ・マンユの顎を掴む。
『ンの、クソガキ……!』
こちらを睨むアンリ・マンユ。どうやら撮影者に言っているらしい。微かに喉奥で笑うような声がしたあと、撮影者は立ち上がってアンリ・マンユの顔に蹴りを入れた。
『ッ……!』
口の端が切れたのか、少量の血が壁に飛んだ。立て続けに顔を2発蹴り、3発殴った。その後も数回身体を殴ったり蹴ったりしてるのが見えた。
『ッゲホ、ゴホッ……!』
ボロボロになりながらもアンリ・マンユは撮影者を睨むのをやめようとしない。
『ふぅ、はッ……はァっ……!』
撮影者は何かを取り出すとそれをよく見えるように角度を変える。透明の液体が入った小瓶だ。
「あれは……?」
「何だ、液体……?」
その映像を見ていたスプンタ・マンユは目を見開き小さく呟く。
「……まさか……聖水……?」
『クソガキ、てめェ……! 自分がやってる事分かってんのか……!』
撮影者はアンリ・マンユの言葉を意に介さず小瓶の蓋を開け、中の液体をアンリ・マンユの身体にかけた。
『っあ、あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!』
液体がかけられた箇所がまるで酸でもかけられたかのように焼けただれた。その様子と悲鳴に思わず顔を背けて耳を塞ぐ天使もいた。
「アンリ……アンリッ……!!」
今にも泣き出しそうな顔をしながらスプンタ・マンユはその映像を見ている。
「……サマエル。貴方は先程アンリ・マンユが人質に取られていると述べてましたね」
「ああ。だが……」
サマエルは映像を見ながら呟く。
「ここまでやるとは、思いたくないだろう。……ラジエル、お前なら知ってるだろ?」
「……」
サマエルの手が強く握られていたのを、ラジエルは見逃さなかった。
「サマエル、貴方は……」
「……これは、宣戦布告だ。地獄から天界への、宣戦布告だ。……これを持たせた理由は、アムシャ・スプンタから崩していこうと考えたんだろう」
「持たせた……? まさか……!」
ラジエルが視線を向けた先では先程スラオシャと呼ばれていた天使はいなく、代わりにクシャスラに肉塊にされた悪魔だったものが転がっていた。
「クシャスラ! これは……!」
「先程、スプンタ・マンユに対してナイフを抜いているのが見えた。……スラオシャの武器は剣だ」
「では、本物のスラオシャは……」
「……捕まっているか、それとも……」
そこから先は、クシャスラでも言葉を続ける事が出来なかった。
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