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地獄、某所。
「ッ、つ……」
「ハハハ、さすが悪魔王様。ちょっとぐらいの怪我は簡単に治るな」
アンリ・マンユは目の前にいる男を睨みつける。
「……テメェ、あんなもん天界に送ってどうしようってんだ。オレがいたぶられてんのを見た程度じゃ、天界は簡単には動かねぇぞ」
「ん? ああ、そうだろうな。知ってる」
「……何がしてぇんだ、お前は」
「何がしたいか? アッハハ、んなもん一つに決まってんだろうが」
男はアンリ・マンユに背中を向け両腕を広げた。
「……戦争。向こうの言い方すんなら、聖戦。天使も神も皆殺しのお祭り騒ぎだ」
くつくつと笑う男に溜め息をつきながらも、アンリ・マンユはその恐ろしい考えに悪寒が走った。
「……正気の沙汰じゃねえな」
「ああ、そうだろうな。でも、それがどうした? 俺は神には既に見放された。俺の正気や狂気を保証できるのは、俺だけだ」
「それを狂ってるって言ってんだよ」
「だから? それを言って俺にどうして欲しいんだ? 戦争起こすのは勝手だが、自分の片割れであるスプンタ・マンユだけでも助けてくれって?」
「……ンなこと言うわけねぇだろうが。あいつはあいつで何とかする」
「信じてるって? 良い話だねぇ、涙がちょちょ切れそうだよ」
そう言っているが、男が笑っているのは顔を見ずとも声音で分かっていた。
「安心しろよ。戦争が終わったあかつきには、お前がそいつになるのさ」
「ッ……!!」
鎖に繋がれていなければ男に飛びついていただろう。鎖の音が牢屋内に響く。
「おっと、怖い怖い。……やっぱり、早い段階でアンタを捕えたのは正解だったな。戦力増強も出来たし、向こうにちょいとばかし揺さぶりをかけることも出来る」
そう言うと男はアンリ・マンユの髪を掴み自分を見させる。
「っ……。ッはは……まだまだ乳くせぇクソガキが、何か言ってら」
「……」
男は未だ強がって笑うアンリ・マンユの顔を殴る。
「ッ……はは、どうした、図星か?」
「……ああ、まあいいや。俺も俺でこれから色々準備しなきゃならねえしな」
そう言って男は牢屋を出ながら指を鳴らすと、急激に温度が下がり始める。
「氷獄の牢の冷気……!? お前……!」
「……んじゃ、ごゆっくり」
「……ンの、クソガキが……!」
牢屋から、肌を割く痛みに呻く声が聞こえるのに時間はいらなかった。その声を聞き、男は満足そうな笑みを浮かべていた。
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