第三話 標(しるべ)

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第六天、北部。 「だああああ!! 一体一体は大した事ねえけど! 数が! 多い!!」 複数の悪魔を薙ぎ倒しながらサバオトが叫ぶ。それに答えるようにドミエルが声を上げた。 「サバオト、敵を一ヶ所に集めろ。まとめて吹き飛ばす」 「それ他の隊員にも伝えて貰っていい!? おれ一人じゃ意味ねぇって!」 「出来ないとでも?」 「おれ一人でそれやっても直ぐに他んとこ散ったりすっから、余計手間かかんだって! 前から思ってたけどドミエルお前結構脳筋だよな!」 「最も効率のいい手段を述べているだけなのだが」 「それが脳筋っつってんの!!」 叫ぶと同時にサバオトの剣が振り下ろされる。悪魔達は呆気なく潰されてしまった。一度、互いの背中を預け合う。 「つーか信頼してくれるの嬉しいけどさ、もうちょっとおれの事丁寧に扱ってくんない? 頑丈っつっても限度があんの!」 一斉に悪魔達が二人に襲いかかる。ドミエルは刀を腰だめに、サバオトは剣を下に構えた。  勢いよく刀を抜き払う。サバオトもそれに合わせて剣を力いっぱい振り上げた。2人の周囲にいた悪魔達があっという間に肉片と化した。 「最大限丁寧に扱ってるつもりだが」 「おれの扱いいぃ!!」 肉片に姿を変えた同胞たちの姿を見て、悪魔達は慄いた。 「そもそも、お前は何も言わずとも勝手に敵陣に向かって行って、勝手にダメージを受けて帰ってくる事が多いだろう。何を今更」 「う……だ、だってそういう時って誰かが先陣切んないと……あっ」 「……ようやく理解したか」 「な、なんか納得いかねー……」 「二人共、まだ戦いは終わってませんのよ!」 上空からエラタオルが落下してきて地面に着地する。それにサバオトの表情が明るくなる。 「エラタオル! そっちはどうだ?」 「そうですわね、とりあえず私の隊の面目躍如、とだけ。質は大した事ないので、あとは出オチさせてますが……念の為、サバオトの隊にもスタンバイしてもらってますわ」 「質など関係無い。敵は敵だ。徹底的に潰せ」 ドミエルの言葉にエラタオルはため息を吐いた。 「会話できそうな知能を持ってるのがいたら、捕らえるようにも言ってますわ。情報は少しでも欲しいですもの」 「あー……そうか、今回は上司にあたるやついるもんな」 「そういう事ですわ。まあ話しても話さなくても、とは言ってありますが」 悪魔達は一番非力そうなエラタオル目掛けて襲いかかってくる。 「あ、そん時はお前がいつぞややってみたいって言ってた、出来るな」 「そう、ができますの!」 次の瞬間、エラタオルに襲いかかった悪魔達の頭が吹き飛んだ。エラタオルの口角はにんまりと上がっていた。 「最後に殺すと言ったな、アレは嘘だ。……くぅ~、一回やってみたかったんですの!」 その様子にドミエルは小さく息を吐いた。 「随分と余裕そうだな」 「あら、時にはこういった息抜きも必要ですわよ? それに、悪魔の中には力ではなく話術を求めてくる方もいらっしゃいますもの」 「何故相手に合わせなければならない。殺してでも聞き出せばいい」 「……」 「……」 エラタオルは少し呆れたように肩をすくめ、サバオトはため息をついた。 「……何か言いたいことでもあるのか」 「いえ……ただ、殺したら聞き出せないじゃないですの」 「悪魔が相手ならば、少し脅せば簡単に情報を売るだろう」 「ドミエルー、そういうとこだと思うぜー……」 ドミエルは少し首を傾げた。 「全くもう……もし、相手のその要求に応じずに得た情報が嘘だったらどうするんですの? 悪魔は天使よりも、契約や取引にこだわる傾向が強いんです。力だけで上手くいくわけではないんですのよ」 エラタオルは二丁の拳銃を弄びながらスカートにしまい、二丁のアサルトライフルを代わりに取り出した。  引き金を引くと、いとも容易く敵が消えていく。その間にも余裕の表情で会話を続けている。 「少なくとも! 悪魔と取引する時は、相手の求める物を差し出した方が、騙されたりする可能性は格段に減りますわよ。彼ら意外とそういうの守りますし」 「しかし……」 「それに、サマエル様から殺さずにそういう情報を得てくれって言われたらドミエル、貴方どうするんですの?」 「……」 遂にドミエルは黙りこくってしまう。周りの敵もので、エラタオルが代わりとでも言わんばかりに口を開く。 「ドミエル、確かにサマエル様に使えるその姿勢は良いと思いますわ。でも少し燃費が悪すぎますの。思った通りに全力で動くのもいいですけど、一度頭の中でシミュレーションしてから動くというのもいかがです?」 そう言いながらエラタオルはスカートに銃をしまった。 「……」 「やり方が悪いとか、そういう事を言いたいんじゃないんですの、私は。ただ、仲間を思ってるだけです」 エラタオルはドミエルの顔をちらりと見た。 「今のやり方を続けてたら、ドミエル。貴方ますわよ。それこそサマエル様が一番望まない展開ですわ。……分かったらもう少し自分を大切になさいませ」 「……だが、私は……」 そんなドミエルの肩をサバオトが叩いた。 「ドミエル。おれが思うにさ、自分に優しくするっていうのと、自分に甘くするっていうのは違うと思うんだよね」 「……理解している」 「……理解してんならさ。行動しようぜ。エラタオルもサマエル様も、みんなドミエルの事が心配なんだよ」 そう言って笑うサバオトの笑顔が、今のドミエルには眩しく見えた。 「そうか……。……善処する」 そのやり取りを見てエラタオルは何処か嬉しそうに笑った。
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