第三話 標(しるべ)

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第四天、南部。そこでは手足に炎を纏わせたアシャが、たった一人で多数の悪魔達を打ち倒していた。 「くそ、数が多い!」 拳を前に突き出すと炎が放たれ、アシャの直線上に居た悪魔は焼き払われた。後ろから襲いかかって来た悪魔に、振り向きざまに蹴りを入れて吹き飛ばす。一体一体はどうということは無いが、このままではジリ貧だ。 「しかしこいつら、一体どうやって天界に来たんだ……!」 天使は地獄に行く事ができるが、悪魔は天界に来る事はできない。その筈だが今こうして悪魔が直接天界に転移してきている。 「魔術の類い……? いや、だとしてもこの数は無理がある。一体……っと!」 背後に忍び寄っていた悪魔を裏拳で吹き飛ばし、他の同時に襲いかかって来た悪魔は地面を強く殴り、衝撃波を発生させて吹っ飛ばした。 「それに、一切の兆候も無かった……ここまで気付かれずになんて、普通は無理な筈だ」 考えれば考える程分からなくなるし、悪魔達は絶えず襲いかかって来る。 (そもそも、この間の会議の時。スラオシャに化けた悪魔はどうやって天界に来た? ミカエルやラジエルの部下とかが、その辺りを今調べてるらしいが……まだ何も分かってない) そう考えていると、突如周囲に多数の悪魔が出現する。 「くっ……!」 疲労を押して構えると、突如悪魔達に矢の雨が降り注いだ。 「うおっ!?」 「アシャ!」 「無事ですか!?」 声のした方向を見ると、鐘の付いた杖を持ったウォフ・マナフと、大弓を手にしたアールマティがアシャの方に走って来ていた。 「ウォフ、アール! 無事だったか!」 「そりゃあね。僕達だってアムシャ・スプンタの一員なんだ。スプンタにアシャ、クシャスラ程じゃないけど一応戦えるんだよ」 そう言ってウォフ・マナフが鐘を鳴らすと、アシャの疲れが和らぎ身体に力がみなぎるのを感じた。 「今、スプンタとクシャスラが第五天中央部で、ハルワタートとアムルタートが第八天西部で戦ってます」 「勿論それぞれの部下も各所で応戦してる。ただ、やっぱりそれなりに被害は出てるみたい」 「っ、そうか……」 沈痛な表情をするアシャに、アールマティが悲しそうな顔をした。 「そして、もう一つ良くない情報が。……地上でも、悪魔の被害が人間に出ているみたいです」 アールマティの言葉に、アシャは驚愕を隠せなかった。 「地上に!? 何で!?」 「理由は分からない。数は天界みたいに軍レベルで、って感じではないけど……それでも各時代の各所に出没してるみたいなんだ」 「そのせいでいくらかの天使が、地上の方に行ってて……」 「けど待て。各時代の世界各地だろ? 一つの時代ならともかく、向かわせるにはかなり手間がかかるんじゃ……」 「はい。そして今、この様な状況なので転移にも手間取っていて……」 「だから珍しくルシフェルとメタトロンが転移を手伝ってる。そんぐらい今の天界は、良くない状況なんだよね」 「ルシフェルとメタトロンまで……」 四大熾天使のルシフェルとメタトロンは天使達の中でも有数の力の持ち主だ。だがその力は強大すぎるあまり、細やかに扱うのは難しい。その為、ルシフェルとメタトロンは余程の事が無い限り、動く事を許されていないのだ。  そんな彼らまでもが事態の収束の為に動いている、というのはそれだけの異常事態でもある、という事を意味していた。 「転移が終われば彼らも迎撃に当たれるはず。そうなれば、まず天界の方は何とかなるはずです」 「それまでとにかく時間を稼がなきゃいけないのか……」 続々と出現する悪魔を見て戦闘態勢を取るアシャ。ウォフ・マナフとアールマティも構えを取る。 その時、天界に突如トランペットの音が響いた。 「!?」 「な、何!?」 その音を聞いて空を見た悪魔達は突如、消え始めた。 「え……!?」
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