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天界第六天、死の天使の訓練場。そこではいつも通り厳しい訓練が行われていた。普段と違うのは、特殊能力での戦闘を主としている隊員の指揮をしているのがドミエルではないという事ぐらいだ。
「相変わらずで何よりだ」
そう小さく呟くサマエル。それに気付いた人物が明るい表情になる。
「! サマエル様、お疲れ様です!」
そう言って白髪の少年の姿をした『死の天使』No.3のサバオトが駆け寄って来た。
「サバオト、お疲れ。調子はどうだ?」
「いつも通り、順調ですよ!」
そう言って笑うサバオトは活発な少年にしか見えないが、実年齢はドミエルとそう変わらない。
「で、あれは強襲してきた奴らか?」
そう言うサマエルの視線の先には5人、隊員が倒れていた。それぞれ小さく呻いていたり悔しそうな言葉を口にしている。
「はい、全員無傷で返り討ちにしてやりましたよ!」
サバオトと倒れている隊員からして、素手で返り討ちにした事は想像にかたくなかった。そもそもサバオトの大剣で攻撃されようものなら、今頃大急ぎで搬送されているだろう。
「第一、そう簡単に攻撃を受けるようではとうの昔にお前の順位は下がっているだろう」
ドミエルの言葉にサバオトは少し顔を顰めて舌を出した。
「分かってるっての。おれ自身もちゃんと訓練してるし、第一どっかの誰かさんみたいにいちいち徹底的に叩きのめしたりしてませんー」
その言葉にドミエルは考える様に口元に指を当てた。
「……エラタオルか? 数日の間に欠員が出たとは聞いてないが」
「おまえのことだっつーの! いくらコートが頑丈っつっても限度があんの!」
「首を撥ねないよう、剣は抜かない様にしているのだが」
「極端かよ!? おれが言いたいのは『属性操作』で返り討ちにするにしてももう少し手加減しろって事なの!」
「力を示すならばそうするべきだろう」
「数日休ませなきゃなんねーからせめて体術入れてから『ハイプレッシャー』とかで動き止めりゃいいだろ……」
そう言うサバオトは頭を抱え、サマエルは苦笑いした。
「サマエル様!」
声がした方を見ると、金髪を縦に巻いたメイド服の少女がこちらに向かってきていた。エラタオルだ。
「お疲れ様ですわ。業務の方は終わったんですの?」
「ああ。全部キッチリな。私がやる必要の無いやつも、ぐうの音も出ない程に完璧にこなしてやったよ」
そう言うサマエルは悪戯っぽく、少し誇らしそうに口角を上げている。それを見たエラタオルもつられて笑った。
「サマエル様がドヤ顔する程なら、その方達は今頃悔しがってそうですわね。嫌がらせのつもりで送ったものが完璧な形で返ってくるのですから」
「なんつーか、そういうとこサマエル様っていい性格してるよな」
そう言うサバオトも笑っていた。
「あ、エラタオル。今日のメシって何だ? おれもう腹減ってさー」
「今日はシーフードカレーにトマトとレタスのサラダ卵付き、スープは鶏白湯ですわ」
それを聞き、サマエルは優しく微笑んだ。
「相変わらずバランス考えてるな、助かるよ」
「いえ、こういった事も私達の役割ですもの。強い兵士は厳しい訓練と良い食事、適度な休息で成り立つものですわ」
その言葉にドミエルは僅かに、本当に僅かに顔を顰めた。
「……私への当て付けか? 適度な休息とやらは与えているが」
「与えていても貴方自身が得ているかは別でしょう? 貴方が倒れると色々困るんですの。何かあったら強行手段使ってでも休ませますので、その辺ご勘弁下さいませ?」
腕を組みながらそう言うエラタオルは口元は笑っていたが、目は笑っていなかった。ドミエルは勿論、サマエルとサバオトもエラタオルが一瞬で銃を抜けるようにしていたのは察していた。
「ご安心を。ちゃんと麻酔銃で撃ちますわ」
「出来れば穏便に済ませてくれ……と言いたいが、言っても聞かない時は頼むぞ、エラタオル」
「……」
ドミエルは普段通りの表情をしているように見えるが、3人はドミエルが複雑そうな顔をしているのを見逃さなかった。
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