1/20
前へ
/98ページ
次へ

その転校生は、最初の一言目からおかしかった。 「5年3組の皆さん、はじめまして! 俺、てんこーせーの、ルカって言います! ちょっと前まで、勇者してました。 学校には行ったことなかったんで、すげぇワクワクしてます! よろしくお願いします!!」 そう言って、ルカは拳を高く掲げた。 そのオレンジ色の瞳と髪は、窓から指した光を反射して、キラキラと輝いている。 いやいや、そこはポーズきめるところじゃなくて、お辞儀するところだろ。 と呆れながらも俺は、そっとクラスを見渡す。 周りの皆も案の定、シラけた目で謎の転校生を見つめていた。 が、当の本人は、そんなこと全く気にしていない様子で、ニコニコと笑みを浮かべていた。 先生がコホンと咳払いする。 「えーと、というわけで、今日からこのクラスに入ることになりました、ルカくんです。 席はあの右端の、空いてるあそこだよ。わかる?」 俺の前の席が指される。 自分が指された気がして、少し肩がすくむ。 ルカは「ありがと!」と弾むように返事をして、こちらに駆けてきた。 「よろしくな!おまえ!友達になろう!!」 新品のランドセルを机に掛けたあと、ルカは振り返って歯を見せ笑った。 「あぁ」と返事をするものの、俺は心の中でため息をつく。 (この席が、なんで空席になったかも知らないで……呑気でいいよな) 苦い記憶が蘇る。 俺はそれをかき消すために、わざと窓の外に目をやった。 今日は快晴。 全く空も、ノーテンキなもんだ。 どいつもこいつも、人の気も知らないで。
/98ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加