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授業終了のチャイムが鳴ると、ルカは早速こちらに椅子を寄せ、俺の方に身を乗り出してきた。
「さっきのが、授業ってやつ、なんだな!
すげー面白かった!!
明日の理科も楽しみだな!!
俺、早く『けんぎきょー』ってやつ、使ってみたい!!」
俺が「顕微鏡な」と答えるも、「ところでさ」とルカは、自分のペースで話を進める。
「俺はルカっていうんだけど」
「知ってるよ」
あえて突き放すように返事をする。
「おまえは?なんて名前なの?」
一瞬、口ごもる。
が、ルカのキラキラした目に押され、視線を反らしながらも答えてしまう。
「……きょう」
「キョー?」
「川野 協。
縦三本線の川に、野原の野。キョウは……協力、の協」
「きょー。キョー。キョーか」
何度か言葉を繰り返す。
そして、ニカッと笑うと、「いい名前だな」なんて抜かした。
どこがだよ。
協力の協できょう、なんて、マジでバカげてる。
陳腐で、ダサくて、なんの意味もない。
字面だけキラキラした、中身のない言葉だ。
眉を寄せ、彼から視線をそらしたその時だった。
「ルカくん、って言うんだよね?」という黄色い声が降ってきた。
顔を上げると、そこにはニヤニヤと笑みを浮かべたクラスの女子数人が、俺とルカを取り囲んでいた。
「転校生なんだよね?どこから引っ越してきたの?」
ルカは一瞬キョトンと目を見開くも、人差し指を顎に付け、うーん、と唸る。
「どこって……どこって言えばいいのかなぁ。
ここでもあるし、全然違うところでもあるし……。
魔獣とかが住んでるところ」
「なにそれ!!魔獣?ジャングルとか?外国ってこと?!」
わっと歓声のような声が湧く。
「えー、じゃあさ、今はどこに住んでるの?」
「今?今日は、教会から来た。
そこのばーちゃんシスターに世話になってるんだ」
すると女子達は、「異国からのホームステイ?!」と騒ぎだす。
異国ってことは、海外から来た、ということだろうか。
でも、そのわりには日本語上手いし、外国人とは思えない。
「ね、さっき勇者がどうとか、って言ってたけど、どういうこと?」
「あぁ、俺さ、前のところで勇者やってたんだ。
魔獣を倒したり、色々してた」
「今日朝にパンを食べてきた」と言うくらい、普通の出来事っぽく話すルカ。
女子達から「マジでー?!」と叫びが起こる。
それは、スポーツ選手のスーパープレイを見た時に上がる歓声。というよりかは、珍しい動物が予想外の行動をした時に上がる叫びと笑い、に似てる気がした。
……うっとおしい。
俺は静かに席を立つ。
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