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子どもたちを連れて帰ってきたシスターを、シオンが呼び止めた。 子どもたちは午前中で解散となり、俺たちはキッチンに集合した。 「……やはり、明日、だったのね」 「やはり、って?」 俺が尋ねると、シスターは俯く。 「実はさっき、子どもたちを連れて村を散策していた時、どうも塔の近くが騒がしかったのです。 いつもより、出入りする人間が多いというか……。 違和感は感じていました」 「シスター。さっき見せた手紙ですが、 あれによると、奴らはシスターや俺には伝えるな、と書いています。 補助役の俺を付けないということは、ルカ様一人でドラゴンと戦わせる気だということでしょうか?」 シオンはシスターを見る。 彼女が眉間に皺を寄せながら頷くと、シオンはドンとテーブルを叩いた。 「ルカ様の安全なんて、奴らは何一つ考えていない……。 ルカ様をなんだと思っているんだ!!」 「そんなこと、前から分かっていたことでしょう?」とシスターがつぶやく。 「とにかく、明日ルカ様が塔を出発するのだとしたら、今晩、ルカ様を奪還する必要があるわね。 急だけれど、お二人とも、大丈夫ですか?」 俺は強く頷く。横のモモも同じだった。 するとシスターは「少し待っていて」と言いながら、静かに立ち上がった。 そして一旦部屋を出る。 しばらくして戻ってきたシスターの手には、布に巻かれた『何か』があった。 「これは、対魔獣用の武器。剣と槍よ」 それらをテーブルの上に置いたシスターは、布を取った。 そこには確かに、青白く輝きの刃を持つ、剣と槍があった。 「不思議な、光……」 モモがつぶやく。 確かにそれは、ぼんやりと冷たい光を放っている。 まるで、以前モモたちと探した『友情の証』のキーホルダーのようだった。 「あなたたちの時代から、約100年後くらいに見つかった新たな鉱物よ。 太陽光を蓄わえて、薄い電流を放つの。 小さな動物なら、この刃に触れるだけで気絶するわ。 魔獣との戦闘の際に使用されるの」 確かに目を凝らすと、刃の表面にパチ、パチと、細かな光が取り巻いているのが分かる。 「俺も、これと同じ素材で出来た矢を持っている。 暗闇でも光るから目立つ半面、夜は、耐電布に包まなければ目立つ。 今回の潜入は、俺がおまえらを先導する。 必ず、ルカ様を助けるぞ」 そう言って、シオンは立ち上がるとテーブルの真ん中に手を突き出した。 俺は「あぁ」と言って、その手に手を重ねる。 モモも「頑張ろうね」と立ち上がり、俺の手の上に、手のひらを乗せた。 「キュー!!!」 忘れるな、と言わんばかりに、チビリューがシスターの膝から跳び上がり、俺たちの手の上に顔を付ける。が。 「チビリューちゃん、何だか身体、熱くない?」 モモに尋ねられるも、チビリューは「ギュー!!!!」と首を振る。 「チビリュー、気持ちはわかるけれど、あなたには無理よ。 この子、どうやら熱があるようなの。 ここ最近、小さい身体でずっと、塔とここを行き来してたから」 そうか。と思い出す。 昼間、チビリューの体温がやたら熱く感じたけれど、それは急いで塔から戻ってきたせいだけではなかったのだ。 俺はチビリューに向き直る。 「チビリュー。おまえのルカを思う気持ちはわかる。 だけど、今はおまえの身体が第一だ。 おまえは今まで、十分頑張ってきた。今度は俺たちの番だ。 大丈夫。絶対に帰ってくるから」 チビリューは「キュウゥゥゥ」と言いながら、小さく頷いた。
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