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「あれ?誰も、いない?」
建物の影から顔を覗かせた俺は、思わずつぶやく。
自動ドアの枠に、無理やり鉄格子をはめ込んだような入り口。
その前には、なぜか誰もいなかったのだ。
「何で誰もいないんだろう。見張りの人達は、私達が来ることを警戒していたのに」
と声を潜めるモモも、首をかしげている。
「おかしいな。いつもはいるはずなんだ。今日に限ってなぜ……。
罠、ということも考えられるが」
シオンは眉を寄せながら、「どうする?」と俺に視線を送った。
確かに、変だ。シオンの言うように、罠かもしれない。
でも……。
「行こう。考えていても仕方がない」
そう言って、俺は二人より先に前に出た。
正面玄関には誰もいなくても、その一つ外側にある柵の前には見張りがいるかもしれない。
それに、俺たちが玄関前に現れた瞬間、一斉に見張りが襲ってくる、なんて可能性もある。
俺は神経を尖らせながらもそっと、正面玄関の前に立った。
そっと金属のドアノブに手をやり、扉を引く。
――ギィィィィ
開いた?俺は一瞬、固まる。
扉は、微かに音を立てながらも、開いたのだ。
嘘だろう?鍵もかかっていないなんて。
あまりに事が上手く運びすぎて、一瞬固まる。
が、ここで立ち止まるわけにはいかない。
俺は、少し開いた扉の隙間に、自分の身体を押し込んだ。
入った瞬間、襲われるかもしれない、と身構えたが、そんなことはなかった。
扉の先に広がっていたのは、大理石の床が広がる、だだっ広い空間だった。
「無茶するな、キョー。案内は俺がすると言っただろう」
俺に続いてシオン、そしてモモが入ってきた。
「誰も……いないね」
ガランとしたその空間に、モモの声が響く。
そこは、綺麗なんだけれど、本当に静かで寂しい場所だった。
大理石の受付カウンタ―が、フロアの角にポツンと置かれている。
その中には、人の形をしたロボットが二体、肘を曲げたまま動きを止めていた。腕や顔には、蜘蛛の巣が張られている。
この塔の一歩外は、電気も通っていない「昔の世界」って感じだったのに、ここだけには、未来の名残があった。
その時に思い出す。
この「未来タワー」は、俺たちが生きていた時代の最新技術を用いて作られた、ということに。
確か、「地震に負けない、災害に強い」をコンセプトにしていると、ニュースでもやっていた。
「魔獣の攻撃に耐えたから、そのままで残っているんだな」
「あぁ。でも、電力も電波もないから、何も動かない。
あのロボットだって、ただのオブジェだ」
そのシオンの言葉になぜか、俺の心は締め付けられる。
が、切ない気持ちを抱いている場合じゃない。
「エレベーターは使えないから、階段でって言ってたよな?」
「あぁ。こっちだ。気を抜くなよ」
シオンが駆ける。俺たちも後を追った。
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