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建物の奥には、金属製の防火扉がある。
その先に、非常用のコンクリート製階段があった。
窓はなく、壁に囲まれたその空間は、薄暗い。
「30階までは同じ構造だから暗いと思う。
が、それ以降は壁がガラス張りになる。
夜だし、見つからないとは思うが、慎重に行こう」
シオンのセリフに、俺は「頂上まで、一体何段あるんだ?」と思わず尋ねてしまった。
「ルカ様のいる展望部屋は、最終階の60階。
そこまでは確か……1500段くらい、と聞いている」
1500?!と、一瞬叫びそうになるのを、必死で耐えた。
俺たちの通っていた小学校の校舎は3階建てで、最上階まで登っても精々40段くらいだ。
そのくらいでも、息切れすることがある。
そんな俺にとって、1500段なんて、途方もない。
が、ひるんでいる場合ではない。
俺は拳に力を入れると、「わかった」とだけ言って、その一歩を踏み出した。
俺たちにはサポーターがある。
だから何もない時と比べると、階段上りはだいぶ楽だった。
初めは、5段飛ばしくらいで軽快に上っていこうか、なんて考えたりもした。
けれど、どこで敵が現れるか分からないし、シオンが先頭で歩けないので、止めた。
一段、一段と足を進めるうちに、次第に足が重くなるのを感じた。
それもそうだろう。サポーターは、あくまで自分の力をサポートするもの。
電動自転車と同じく、動力の元になっているのは、自らの筋力だ。
疲れも溜まるし、動かすほどに体力は消耗する。
最初の方は軽々と段を蹴れていたが、300段を過ぎたあたりから、少しずつ息が荒くなってきた。
「モモ、大丈夫か?」
俺は、後方にいるモモに振り返る。
彼女は「……うん」と俺を見上げ苦笑した。
モモは、元々クラスでも、運動が得意な方ではなかった。
「休むか?」と尋ねると、「大丈夫」と短い返事が返ってきた。
「あと少しで、30階だ。そこからはガラス張りだから。
今まで以上に気を引き締めよう」
俺の数段上を歩いていてるシオンの声が降ってくる。
彼は、元々の筋力が俺たちよりないにも関わらず、そのペースを崩さない。
多分、それに勝る精神力でスピードを保っているんだ。
すごい、と単純に思った。
俺たちは真っ暗な階段を黙々と上り続ける。
と、段々薄い光が、上から降り注いできた。
「うわ」
俺は短い声を上げる。
取り囲んでいた壁が、ガラスになったのだ。
満天の星空がこちらに微笑んでいる。
と同時に、小さくなった村内の家や木々が見える。
こんなに高くまで上がってきていた実感がなかったため、俺は思わず身震いする。
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