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俺たちは、そっと茂みから顔を出す。 視線の先には、大量の松明があった。 ここは、ドラゴンが住むという洞窟の前。 シオンの案内で予定より早くここまでたどり着けた俺たちは、洞窟を取り囲む大勢の村人たちの様子を、草木の間から伺っていた。 「洞窟の前でこんなに松明を焚いたら、ドラゴンが起きるだろう。 全く、何を考えているんだ……」 シオンがギリリと歯を食いしばる。 照明や懐中電灯がないから仕方ないとはいえ、沢山の松明を持った村人たちは、それを気にする風でもなく、洞窟前で何やら話している。 「ルカくんはどこだろう?もう入っちゃったのかな?」 モモの問いかけに、俺は答えを返せない。 何せ俺たちも、今先ほどここに来たばかりだ。状況がイマイチ飲み込めていない。 俺たちは身をかがめながら、少しずつ村人たちのもとへと近づいていく。 と、そこである男たちの会話が、耳に届いた。 「いや~、ここまで大変だったなぁ~」 「でも、これで一安心。勇者様がこいつを倒せば、当分、村は安泰だろうさ」 男たちは、笑みを浮かべながら地べたに胡坐をかいている。 「でもなぁ。これは氷山の一角だ。他のどこに、巨大魔獣が潜んでいるか、まだまだ分かったもんじゃねー。 20年前のような怪獣みたいなのが来たら、ひとたまりもねー。 そのためにも、勇者様は今後も、どっかに閉じ込めておかねーとな」 「そうだな。今回みたいにすぐに出動させられるように。 そもそも、あの教会に預けたのが失敗だった」 「あぁ。あのシスター、『勇者様はまだ一人の子どもなんですー』なんて抜かしていたが……。 確かに子どもでも、勇者様は俺たち唯一の戦力だ。 ちゃんと活躍してもらわんと。 そのためだけの存在なんだからな」 そのためだけの、存在……。 盗み聞きしていた俺は、思わず歯を食いしばる。 ムカムカした感情で、身体の内側が、熱くなる。 「そうとも。シスターは俺たちに『勇者様を人間扱いしろ』なんて抜かしていたが、そんなきれいごと言ってられるかっての。 大体、勇者様の先祖は、高度情報化社会を拒否した『原始人』的な奴らだ。 結果的に今は、ああいう奴らに頼らざる得ないが、もとは俺たちより『劣っている』奴ら。 特に、うちの勇者様はまだ子どもだし、操作しやすい。 俺たち『賢い大人』が『脳みそ筋肉の原始人少年』をこき使って、何が悪いってんだ」 「ちょっと、それは言いすぎだ」 ふてぶてしい言いぐさの男を、もう一人の男がニヤニヤ顔で止める。 俺は、こいつらの会話を聞いて、すべてを納得することができた。 やっぱりこいつらは、ルカのことを「勇者」として崇めるふりをしながら、実際は見下しているのだ。 自分たちの番犬のようにしか考えていない。 そんな扱いに見かねて、シスターとシオンは、ルカを俺たちの時代に逃がしたんだ。 ルカが、人間として、ルカらしく生きていけるように。
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