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5
俺たちは、そっと茂みから顔を出す。
視線の先には、大量の松明があった。
ここは、ドラゴンが住むという洞窟の前。
シオンの案内で予定より早くここまでたどり着けた俺たちは、洞窟を取り囲む大勢の村人たちの様子を、草木の間から伺っていた。
「洞窟の前でこんなに松明を焚いたら、ドラゴンが起きるだろう。
全く、何を考えているんだ……」
シオンがギリリと歯を食いしばる。
照明や懐中電灯がないから仕方ないとはいえ、沢山の松明を持った村人たちは、それを気にする風でもなく、洞窟前で何やら話している。
「ルカくんはどこだろう?もう入っちゃったのかな?」
モモの問いかけに、俺は答えを返せない。
何せ俺たちも、今先ほどここに来たばかりだ。状況がイマイチ飲み込めていない。
俺たちは身をかがめながら、少しずつ村人たちのもとへと近づいていく。
と、そこである男たちの会話が、耳に届いた。
「いや~、ここまで大変だったなぁ~」
「でも、これで一安心。勇者様がこいつを倒せば、当分、村は安泰だろうさ」
男たちは、笑みを浮かべながら地べたに胡坐をかいている。
「でもなぁ。これは氷山の一角だ。他のどこに、巨大魔獣が潜んでいるか、まだまだ分かったもんじゃねー。
20年前のような怪獣みたいなのが来たら、ひとたまりもねー。
そのためにも、勇者様は今後も、どっかに閉じ込めておかねーとな」
「そうだな。今回みたいにすぐに出動させられるように。
そもそも、あの教会に預けたのが失敗だった」
「あぁ。あのシスター、『勇者様はまだ一人の子どもなんですー』なんて抜かしていたが……。
確かに子どもでも、勇者様は俺たち唯一の戦力だ。
ちゃんと活躍してもらわんと。
そのためだけの存在なんだからな」
そのためだけの、存在……。
盗み聞きしていた俺は、思わず歯を食いしばる。
ムカムカした感情で、身体の内側が、熱くなる。
「そうとも。シスターは俺たちに『勇者様を人間扱いしろ』なんて抜かしていたが、そんなきれいごと言ってられるかっての。
大体、勇者様の先祖は、高度情報化社会を拒否した『原始人』的な奴らだ。
結果的に今は、ああいう奴らに頼らざる得ないが、もとは俺たちより『劣っている』奴ら。
特に、うちの勇者様はまだ子どもだし、操作しやすい。
俺たち『賢い大人』が『脳みそ筋肉の原始人少年』をこき使って、何が悪いってんだ」
「ちょっと、それは言いすぎだ」
ふてぶてしい言いぐさの男を、もう一人の男がニヤニヤ顔で止める。
俺は、こいつらの会話を聞いて、すべてを納得することができた。
やっぱりこいつらは、ルカのことを「勇者」として崇めるふりをしながら、実際は見下しているのだ。
自分たちの番犬のようにしか考えていない。
そんな扱いに見かねて、シスターとシオンは、ルカを俺たちの時代に逃がしたんだ。
ルカが、人間として、ルカらしく生きていけるように。
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