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今後も留まる?
俺たちも?
「でも、私達は普通の子供です。
帰る場所もあるし、家族も待っているし……」
口をあんぐりと開けた俺の隣で、モモが恐る恐る返事をする。
しかし、大人たちは
「そんなものより、村の平和の方が大事でしょう!」とか、
「家族がおられるのなら、こちらにお呼びください!」などと叫びながら、一歩ずつ、こちらににじり寄ってくる。
俺が突然のことで呆気に取られていると、シオンがそっと、後ろから話しかけてくる。
「まずいぞ、キョー。このままだとお前たちまで、ルカ様の二の舞だ」
ルカの二の舞?
ってことは、俺たちも、ルカと同じように閉じ込められ、こいつらに一生、いいように使われるだろうってことなのか?
俺は唇をキュッと閉じ、ズンと、一歩前に踏み出す。
モモもルカも「え」と小さく声を上げた。
「俺たちには、帰る場所があります。
今回はたまたま訳あってドラゴン退治までしたけど、俺たちの本来の目的はそれではありません。
俺たちは、ルカを助けにきたんです。
あんたらがいいように利用しているルカの、その本当の気持ちを聞きにきたんです!!」
取り囲む大人たちが、瞬間、目を丸くする。
しかし俺は気にせず、ルカの方に向き直った。
「おい、ルカ、お前の気持ちを教えてくれ。
お前は、ここに留まりたいか?
それとも、俺たちと一緒に、俺たちの時代で暮らしたいか?」
ルカが眉を上げる。
数秒の間の後、小さな声でルカは「でも、俺は勇者で」とつぶやいた。
「勇者とか、そういうことを聞いてるんじゃない。
俺は、ルカっていう一人の人間の気持ちを聞いているんだ。
おまえ、学校にいた時は、そんな感じじゃなかっただろ?
もっと自由で、のびのびしてて、毎日笑ってたじゃないか。
俺は、勇者のお前に尋ねているんじゃない。
ルカっていう、一人の友達に問いかけているんだ。
おまえが、本当のおまえでいられる場所は、どっちなんだよ?」
俺が真正面から目を見つめ、語気を強めると、彼の瞳が凛と揺れた。
「……りたい」
俯いてたルカが、小さくつぶやく。そして顔を上げ
「俺は、お前らと、帰りたい!!!!」
ハッキリと、俺と皆に向かって叫んだ。
俺は瞬間、強く頷く。
そしてルカの手を取ると、目の前の大人たちを蹴散らし、一目散に駆け出した。
「お、おい、お前ら!!!」
大人たちが叫び声を上げる。
俺は一瞬後ろに視線を向ける。
モモとシオンも付いてきていることだけを確認すると、ただ、前へ前へと駆けた。
「逃がすかぁ!!!!!」
大人たちが追いかけてくる。でも、俺たちのスピードにはかなわない。
「ルカは連れて行く!!!あんたらも、これからは自分達の力で何とかしろ!!」
俺は走りながら、後ろに向かって叫んだ。
サポーターのおかげで、身体は飛ぶようにどんどん前進する。
シオンはモモに手を引かれているため、なんとか付いてこれていた。
俺たちはそのまま、森を抜け、村を抜け、教会のある丘へとたどり着く。
教会の門の前では、竹箒を片手に、シスターが不安そうな様子で立っていた。
「シスター!!」
とルカが手を振ると、彼女は「ルカ様?!ご無事だったのですね!!」と一瞬顔をほころばせる。
「キュー!!!!」と、シスターのローブから出てきたチビリューがルカに巻き付く。
ルカは「心配かけたな!!」とチビリューを撫でまわした。
「でも、どうしたのですか?そんなに慌てて?!」
と目をぱちくりさせるシスターに、俺は叫ぶ。
「ドラゴン退治は、終わらせました。で、ルカは俺たちの時代に、一緒に帰ることになりました。
でも今、それを許せない大人たちが、俺たちを追ってきているんです」
「え、ええ?!」
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