3/5
前へ
/98ページ
次へ
シスターは、明らかに混乱していた。 そんな彼女に向かって、ルカは告げる。 「シスター、井戸の時空転移装置を起動させてくれ。 俺はこのまま、キョー達と同じ時代で暮らしたいんだ!」 そしてシスターとシオンを交互に見ながら 「シオン、シスター、おまえらも、行こう!!!」と叫んだ。 「えっ?!」 二人が、声を揃える。 「だって、俺を一度逃がしたお前らが、再び俺を逃がしたと知れたら、奴ら、何するか分かんねーぞ? これからも、一緒に暮らしていこーよ!なっ?!」 「し、しかし、一緒に行くなど分不相応すぎて俺には……」 慌てるシオンの肩を、ルカが掴む。 「何言ってんだよ!!お前は、こっちの世界での、ただ一人の友達だろ!! 友達を置いていけるかよ!!!」 その言葉に、シオンの目が瞬間、潤む。 シスターは覚悟を決めたのか、「こちらです」と裏庭の方へと駆けた。 「調整できました。 ダイアルを、キョー君たちが来た時間の直後に設定しました。 今井戸に飛び込めば、あなたたちがこっちに来たすぐあとの時間に戻れます」 ルカはコクリと頷くとシスターの目を見る。 「シスター、お前も来てくれるよな?」 その問いかけに、シスターは静かに首を振った。 「……お言葉は嬉しいのですが、私は、一緒には行けません」 彼女の言葉に、思わず耳を疑った。 「なんで!」「なぜです!!!」 皆の言葉が重なる。 「……私は、この時代の栄光、そして急激な衰退を、間近で見てきました。 ルカ様とシオンは、まだ子供です。なんの咎もありません。 ですが、大人である私には、過去の皆さんが失望する未来を作ってしまった責任がある気がするのです」 「責任って」 俺が話し終わる前に、ルカが叫ぶ。 「でも、このままじゃシスター、村の奴らに何されるかわかんねーぞ!!」 すると、シスターは、人差し指を唇に乗せて、ゆっくり微笑んだ。 「大丈夫。こう見えても私、結構したたかなんです。 簡単に捕まったりなどしませんよ。 未来の人間として、過去に生きるあなたたちに顔向けできるようになれば、また、会えるかもしれません」 「そんな……」 モモが不安げに眉を寄せた瞬間、「時間はありませんよ」とシスターが俺たちを急かした。 「分かったよ。シスター。みんな、行くぞ。俺たちの場所へ帰るんだ」 俺が答えると、モモも静かにうなずく。 シスターが、井戸のスイッチを入れる。 と、瞬間、水が虹色に輝き出した。 「俺から行く!」 と、ルカがその淵に立った。 「シスター、今までありがとう。絶対捕まるなよ!!約束だぞ!!」 向き直って見下ろすルカに、シスターは「はい」と微笑む。 ルカは強く頷くと、そのまま背を向け、チビリューと共に井戸に飛び込んだ。 それに続いてモモが。 そして、最後までシスターに目をやるシオンの手を引きながら、俺も井戸の中へと飛び込んだ。 ザブンという鈍い音。 来た時と同じように、虹色の水が渦を作り、俺たちを巻き込んでいく。 そして、それが徐々に治まり、浮力に押し上げられ、再び顔を出すと。 「あ……」 そこには、俺たちが水たまりにダイブした時と変わらない、もとの時代の裏庭があった。 「無事、戻ってこれたな」 先に到着していたルカが、俺に手を差し出す。 俺もニッと微笑むと、その手を取り、地面へと這い上がった。 「貴方たち!!!!」 最後に井戸に飛び込んだシオンを水たまりから引き揚げたところで、こちらの時代のおばあちゃんシスターが叫ぶ。 「ルカ!!!どこへ行ってたの!!!!心配したのよ!!!!!!」 おばあちゃんシスターはこちらに駆けより、ルカを力強く抱きしめた。 ルカは目じりを下げると、そっとシスターの肩に手を置く。 「ごめん、シスター。急にいなくなっちゃって。 でも大丈夫。もうどこにも行かないから。 ずっとここに、いるから」 ルカは静かに微笑みながら、涙を流すシスターの頬にそっと触れた。 そんな光景を眺めながら、俺は、ルカを連れ帰ってよかったと、心底思った。 シスターは、警察や学校にルカが帰ってきたことを報告した。 と同時に、俺たちを家まで送り届けてくれた。 久しぶりの我が家。だけど、それが久しぶりであることは、俺以外の家族は皆知らない。 「あんた、そんな服持ってた?」 久々に会ったにもかかわらず、母さんからの第一声はそれだった。あっちで借りた服を着たまま、こちらの時代に戻ってきてしまったのだ。 俺は「友達から借りた」と適当に濁した。 その後、俺は家の明かりが点くことや、蛇口をひねれば水が出てくることにいちいち声を上げ感動した。 そんな俺を、家族の皆は不審がった。 「あんた、熱でもあるんじゃないの?」 もちろん熱なんてない。 ただ俺は、この「当たり前の便利な暮らし」のありがたみを、改めて感じただけだ。
/98ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加