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お守り替わりのブレスレットを着けていると心強く、そしてどこか温かい気持ちになる。
はにかむ英美に、幸奈がニヤッと笑った。
「へえ~、なるほど。そういうことか」
「え? 何が……」
「鏑木。背は低いけど結構顔は良いし、不愛想だけど思ったよりいい奴みたいだし」
「ちょっと幸奈、何言って……これはそういうのじゃなくて、お守りで……!」
慌てて言い繕う英美の顔は真っ赤だ。
狼狽える英美をにやにやと幸奈は見ていたが、ふと、その顔が真顔になった。
「え、嘘……っ」
幸奈の表情を見て、英美は緊張する。
まさか、あの後ろ姿の女性がまた現れたのか――
手首ごとブレスレットを握って、英美が振り返った時だ。
目の前に壁があった。否、誰かの胸元だ。
思わず後ずさった英美が体勢を崩すと、その腕を誰かが掴む。大きな手は、軽々と英美を支えていた。
「――ごめん、驚かせたね」
「え……」
英美が見上げた先には、大学一の有名人がいた。たしか、現役大学生モデルで雑誌の表紙を飾ったりしている――そう、『水宮慧』だ。
同じ大学であることは知っていたが、学部も違うし、サークルも違うしで、ほとんど彼に会うことは無い。しかもこんなに間近で彼を見たのは初めてで、英美は目を白黒させた。
水宮は、雑誌で見るよりも綺麗な顔で微笑む。
「ねえ、高野さん。話があるんだけど、いいかな?」
水宮の申し出に、きゃあっと声を上げたのは周囲の女子学生だ。言われた当人は、訳が分からずに彼を見上げるばかりだった。
「え、何で……」
「少し聞きたいことがあって……鏑木君のこと、知ってる? 鏑木湊斗君」
人に聞かれたくないような小声で囁かれた鏑木の名前に、英美ははっとする。
水宮は少し困ったような顔で笑った。
「実は……僕も、彼に相談したいことがあって」
もしかして、水宮も何か――霊に関することで困っているのだろうか。
二週間前、悩んで追い込まれ、切羽詰まっていた自分を思い出す。英美は水宮に向かって、力強く頷いて見せた。
「大丈夫! 鏑木君なら、ちゃんと相談乗ってくれるよ」
前金は二万もいらない。
噂と違って、彼は本当に困った人を助けてくれる。
そのことをきちんと伝えなければ。
そう意気込む英美は、水宮の企みを知ることもなく、鏑木のことを話したのだった。
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