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さっきから気づいていたが、彼には何も憑いていない。というか、ちょっと珍しいくらいに綺麗だった。
誰でも一体二体は霊が……ってことはさすがに無いが、霊はいなくとも人間は様々な気を纏っている。霞のようなものといえばいいだろうか。
幼稚園児の放つ元気そうな明るい色。
疲れたリーマンのどんよりとした暗い色のものから、繁華街を行く人のピンクとか紫とか怪しげな色合いのもの。
ラブラブカップルの放つ幸せ満開な薔薇色、と見せかけて修羅場のどす黒い色が内蔵されていて……
という具合に、色、量や濃さは人それぞれ。相手の体調なんかもわかったりする。
なのに、水宮はすっきりし過ぎているというか、彼の周りだけ、高圧洗浄機で一切の汚れを落とした後みたいにぴっかぴっかなのだ。
こんな綺麗な人物は、祖母の腐れ縁である凄腕生臭坊主(肉も酒も女も大好きなのに法力が無茶苦茶高い)や、叔父の友人の聖人君子な神主(いつも美味しいお菓子をくれる良い人だ)以来だろうか。
こちらの方が、目が洗われるようであった。
とにかく、水宮の霊視はこれで終わりだ。
湊斗は近くに置いたはずの眼鏡を探した。
普段はそういったモノを見過ぎないようにと、湊斗は眼鏡をかけている。
別に眼鏡に特殊な力があるわけではないが、眼鏡を掛けているときは能力をオフにする、と自分の中のスイッチをオンオフする意味合いで使っていた。
手で探りながら、湊斗は言葉を続ける。
「あんたの周りは綺麗なもんだ。お祓いも必要ないよ。むしろ霊の方が寄り付かなさそうだから、安心したら?」
寝転がっていた時に頭があった所で眼鏡をようやく見つける。
湊斗は黒縁眼鏡を掛け、土ぼこりを払ったウィンドパーカーを羽織り、よいせと立ち上がった。
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