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ひやかし客にこれ以上用は無い。
この場で昼寝の続きは無理そうだから、別の場所……図書館の裏庭にあるベンチで、残りの時間を昼寝に費やそうと考える。
一応最初に『霊がいなかったら、そこで終わりだから』と言質は取ったわけだし、文句を言ってきても水宮の自業自得だ。
三万円ぼったくったことは少々気詰まりだが、有名人の水宮がこの事を学内で言いふらしてくれれば、ひやかし客はもっと減ってくれるだろう。
水宮も勉強料とでも思ってくれ、とあっさり切り替え、次はこの三万円でどうやりくりしようかと湊斗の思考は動き出している。
「霊視は以上。他に何かある?」
別れの挨拶というように、階段に座ったままの水宮を見下ろした。
湊斗の返答に呆気に取られているか、あるいは怒っているか――。
しかし水宮はそのどちらでもなく、にっこりと嬉しそうに笑った。そのスマイルはモデルだけあって完璧で綺麗なのに……妙に変な感じがした。
何だかこう、背筋がぞわっとするような、落ち着かなくなるような。
霊を視るときとは違う、嫌な感じがする。
湊斗が思わず一歩後ずったとき、いきなり腕を掴まれた。
満面の笑みの、水宮に。
「良かった。君、本当に視えているんだね」
「は……?」
「鏑木君のこと、高野さんから聞いたんだ。ほら、文学部二年の、ショートボブの子。高野英美さん。一か月くらい前に、君に相談してきた子。覚えてないかな?」
「し、知らねぇよ……」
戸惑いながら、湊斗は掴まれた腕を引き抜こうとするが、ちっとも外れない。
痛くはないが、水宮の大きな手でがっちりと掴まれていた。ゴリラのような剛力とは真逆の柔和な口調で、水宮は話し続ける。
「高野さん、鏑木君に相談したとき、『前金二千円』で相談に乗ってくれたって言ってたよ。その場ですぐにできる対処法と、お祓い屋も紹介してもらって、すごく助かったって」
「……」
「本当に霊が憑いている子には、前金安く設定してあげているんだね。いい子だなぁ、鏑木君」
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