第一話 前金三万じゃ足りません

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「……」  ――くそ。面倒な奴に絡まれた。  湊斗は内心を隠そうともせずに、無言で渋面を作った。  水宮の指摘は当たっている。  湊斗だって、いつもいつも高い前金で相手を追い払うわけじゃない。 『あ、あの……鏑木君……少し、少しでいいんだけど、話、聞いてもらっていいかな?』  暗い顔つきで辺りを窺いながら、自信なさげに話し出す先輩。 『いや、まあ、俺の気のせいだとは、思うんだけどさ! は、ははは……』  一見明るそうに振舞っているものの目に怯えを乗せ、乾いた笑いを零す男子。 『も、もう、あたし、どうすればいいのか、わかんなくて……』  追い詰められ、人に話すことで気が緩んだのか、泣き出す女子。  彼らの周囲には、暗い影が纏わりついていた。  本当に霊現象に困惑し、困っている人に『前金三万』という要求をするほど、湊斗は守銭奴ではない。  そこはケースバイケースだ。  “本物”の相談者である彼らには、『前金二千円』で統一して霊視をし、あとは祓い屋を紹介して、時には仲介もする。二千円は、霊視料と相談料、仲介料を含めた額だ。  また、一目見て症状がやばいと思ったときは、自分が知っている身を守る方法を教える。  たいていは、チャック付きポリ袋に入れて常備している、小さな和紙包みの塩を渡し、緊急性のあるやばいものだったら、数珠――自分の両手首に計六本着けているブレスレット型のものだ――を押し付ける。  紹介する祓い屋は主に、湊斗の叔父である鏑木真澄(ますみ)だ。幸いにも隣の市に事務所を構えており、大学からそれほど遠くはない。  真澄は(自称)優秀な祓い屋であるし、それでも難しい場合は祖母の浪江や、知人の僧侶や神主などに繋いでもらう。  真澄からは、依頼人を紹介することで多少の仲介料を貰えるから、依頼人にとっても湊斗にとっても悪い話じゃない。  純粋なボランティア精神でやってるわけでもない、臨時バイトのようなものだ。  まあ、そうやって偶に“本物”を引き受けるから、ひやかしの客がいまだに無くならないのだろうが。  オカルト研究会の奴らも、どこで誰から聞きつけているのか知らないが『君のその力は僕達の研究会に必要で云々(うんぬん)~』と勧誘を諦めない。
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