10話

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背後からノック音聞こえた。 振り返ると若木は半開きの自室のドアから身体を覗かせ、ニヤケたような表情を浮かべている。 「坊っちゃま。」 鳥肌がたった。若木が俺をそう呼んでいたのは、小学校3年生まで。 「気味悪いぞ。」 「ふふ、ふふふ…。」 「 なんの用だ?」 「ふふ。坊っちゃまのために、春太 様がいらっしゃってますよ。」 「いつもみたいにプリントを届けに来たんだろ」 「いいえ。本日はお見舞いだそうです」 「…体調が悪いから会えない。帰してくれ」 「まっ! 可哀想な春太 様…。しょんぼりした姿が目に浮かびます…。」 わざとらしくハンカチを口元にあてがう若木。 「でも仕方ありませんね…。 かわりに私が春太 様と楽しくお喋りを、」 「っはぁ〜…。分かったよ、後で行く。」 「でしたら、早めに来てくださいね。お客様を待たせるものじゃありませんよ」 若木が階下に戻る足音が聞こえる間、自室のドアを見つめて考えていた。 「(春太に会いたくないわけじゃない…。)」 でも、会って何を話せばいい?どんな顔をすればいい?最初の一言は? 「(どれも分からない…。)」 まるで頭の中に別人格の自分が居て、疑問を次々とぶつけられるような。 久しく感じていなかった焦りが一気に襲ってきて、変な汗が出そうになる。 大人しく椅子にも座っていられない衝動に駆られ 立ち上がり、そのまま2人の待つ1階へと行く。 キッチンの入り口に立てば、春太の声がすぐそこに聞こえた。
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