13人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ
背後からノック音聞こえた。
振り返ると若木は半開きの自室のドアから身体を覗かせ、ニヤケたような表情を浮かべている。
「坊っちゃま。」
鳥肌がたった。若木が俺をそう呼んでいたのは、小学校3年生まで。
「気味悪いぞ。」
「ふふ、ふふふ…。」
「 なんの用だ?」
「ふふ。坊っちゃまのために、春太 様がいらっしゃってますよ。」
「いつもみたいにプリントを届けに来たんだろ」
「いいえ。本日はお見舞いだそうです」
「…体調が悪いから会えない。帰してくれ」
「まっ! 可哀想な春太 様…。しょんぼりした姿が目に浮かびます…。」
わざとらしくハンカチを口元にあてがう若木。
「でも仕方ありませんね…。 かわりに私が春太 様と楽しくお喋りを、」
「っはぁ〜…。分かったよ、後で行く。」
「でしたら、早めに来てくださいね。お客様を待たせるものじゃありませんよ」
若木が階下に戻る足音が聞こえる間、自室のドアを見つめて考えていた。
「(春太に会いたくないわけじゃない…。)」
でも、会って何を話せばいい?どんな顔をすればいい?最初の一言は?
「(どれも分からない…。)」
まるで頭の中に別人格の自分が居て、疑問を次々とぶつけられるような。
久しく感じていなかった焦りが一気に襲ってきて、変な汗が出そうになる。
大人しく椅子にも座っていられない衝動に駆られ 立ち上がり、そのまま2人の待つ1階へと行く。
キッチンの入り口に立てば、春太の声がすぐそこに聞こえた。
最初のコメントを投稿しよう!