11話

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11話

「そういえば、若木さんが出してくれた紅茶、なんかいい匂いがしますね」 若木がピクっと反応する。途端に瞳が輝き出した。 「分かります? その紅茶には桃の香りが施されてるんです。どなたでも飲みやすい紅茶だと私は思ってるんですが…」 「確かに飲みやすいです! 俺、この紅茶好きかも」 「嬉しい…! まだおかわりありますので、どうぞ」 ガラス製のポットから、紅茶が滑らかに注がれる。 「その1杯でやめておいた方がいい。」 久しぶりの声にパッと振り向く。 「冬人君、久しぶり!」 「…久しぶり。春太」 「もう体調良くなった?」 「あぁ。特に何ともない」 「そっか、良かった!」 満足気に笑う春太の横から若木が恨めしそうな視線を送る。 「今のどういうことです? 坊っちゃま」 「そのままの意味だろ。もてなすどころか 客人を困らせるな」 ムッとしながらも若木は 主人用のティーカップを用意するためにキッチンへ立った。 かわりに冬人が春太の隣へ。 「今止めてなかったら、最低でもあと5杯は勧められてただろうな」 「あと5杯…。お腹、タプタプになっちゃう…。」 冬人の紅茶のつがれたカップが運ばれてきた。 「あ、でも、 急に来てごめんね。呼ばれてもないのに…。」 「別に迷惑とは言わない。」 「本当? また来てもいい?」 「…連絡を入れてから来るなら。」 「やったー! ありがとう!」 冬人は ふん、と鼻を鳴らすとティーカップに口をつける。 若木には、冬人が照れているのだと丸わかりである。平静を装う顔とは裏腹に 耳は 赤く染まりきっていたからだ。
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