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俺の秘密
低層のボス部屋まで、掠り傷一つ負わずに辿り着く。今迄の苦労は何だったのだろうか。
「何でこんな強いのに、奴隷なんかになっちまったんだ?」
「アタシの故郷は、ダンジョンの中層辺りのモンスターが蔓延っていたんだ。其処で実力を磨いていたある日、ドラゴンに出くわした」
「良く生きて帰れたな」
「五体満足とはいかなかったがな。瀕死になって火傷と欠損を治すには、アタシの稼ぎじゃ足りなかったのさ」
「完治を引き換えにして、戦闘奴隷になった訳か」
「どの道故郷を飛び出したかったし、あれこれ考えながら戦うのも不向きだから、奴隷の身分の方が気楽で良かったのさ」
「バカなご主人様が相手じゃなければな」
「金持ちのお坊ちゃんだったのがいけなかったね。金払いは良くても、相性は最悪だ」
「本人が弱くても周りが強ければ良いって考えは、命を預けられんな」
「売られて正解さ。で、ご主人様の秘密は何時教えてくれるんだい?」
「ボスでご披露するさ。先に周りの雑魚を蹴散らしてくれ」
ボス部屋に入ると、ゴブリンキングがゴブリン達を従えて待ち構えていた。
「楽勝」
入って数刻で雑魚は殲滅された。残るはゴブリンキングのみ。
「ボスの動きに注目していてくれ」
俺は散歩するように近づき、ゴブリンキングが俺を標的として大剣を振り上げる。
「おい、危ないぞ!」
「心配ない」
俺は真っ直ぐゴブリンキングに向かい短剣を突き出す。ゴブリンキングは笑みを浮かべて俺の脳天目掛けて大剣を振り下ろした。
俺は変わらず踏み込んで短剣をゴブリンキングに突き刺し、ゴブリンキングの大剣は俺の真横を通り過ぎて地面に突き刺さる。
「は?」
その後も俺の攻撃だけが一方的に突き刺さり、ゴブリンキングの大剣は俺の身体に触れられなかった。
「何がどうなっているんだい・・・」
幾度目かの攻撃が決まった際、ゴブリンキングは命を落とした。
「ふう、ゴブリンキングの皮膚が硬くなくて良かった」
「何でゴブリンキングはご主人様に大剣を当てられなかったんだい?」
「認識阻害って言えば解りやすいかな? ゴブリンキングには俺の立ち位置が、少しだけずれて見えていたんだよ」
「凄いじゃないか」
「弱点はある。認識阻害にかかるのは俺が意識している相手だけで、それ以外の奴や背後からの不意打ち等には効かない」
「正面切っての一対一なら最強って事かい」
「まあ、本当の効果は厳密には違うんだが、説明が難しいから今はその考え方で良い」
「犯罪歴がないのは?」
「俺が盗みを働いても、盗まれた本人が認識出来ていないから」
「悪さし放題じゃないか」
「監視されていたらバレバレだよ。俺は組織の幹部に目をつけられて、現場を目撃された事で組織の仲間入りさ」
「おいおい、ご主人様は本物の悪者かよ」
「だから今迄、単独行動でダンジョン攻略していたんだよ。低層迄なら独りでも稼げたからな」
ゴブリンキングの魔石を拾い、ボス部屋を退去する。中層には行かずに、近くの開けた場所で夜営をする。
結界の魔道具を起動して安全地帯を造り、寝床を用意する。テントを張り、中で何かしていても人目につかない様にした。
「期待し過ぎじゃないかい?」
「我慢できるのか? 興奮を静めるには発散が手っ取り早いぞ」
「逃げ道を塞ぐ遣り口は、悪い男のする事だよ」
「俺はご主人様なんでな。奴隷にご褒美を与えなきゃならん」
「自分への間違いじゃ?」
「俺は娼婦を一度も不満にさせていないのが自慢だ」
「絞り尽くしてやんよ」
「望むところだ」
その後、俺は戦闘奴隷との異種格闘技に勝利した。
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