天界の掟

2/7
57人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
 天使長様に会う時はいつも楽しみで足取りが軽い。けれど今日は足がとっても重く感じるんだ。僕たち天使は翼もあって身軽なはずなのに、こんなに重く感じるなんて不思議だね。  天使長様はこの天界で僕を見つけてくれた方。人間界で死んだ後、いつの間にかここに存在していたものの姿はないままだった僕に姿を与えてくれた方。この姿は僕がまだ人間だった時の姿なんだ。違うのは髪色だけ。なんでこんな若さで死んだのかは覚えてない。ただフンワリと、いつの間にかここに存在していただけ。   天使長様は姿がなく漂っていた僕に姿を与えてくれると、ラビエル先輩のとこに連れていってくれた。「この子面倒見てあげて。名前は…そうだな、ルヒエルだよ」その場で名前もつけてくれて、たまに見にきては天使としての心得を教えてくれて育ててくれた方。「私が名前をつけたから君の親は私だね」って優しく笑って話してくれた。光輝くオーラを持った、天使みんなが憧れる方。そんな方が僕の親って言ってくれるのは、本当に誇らしかった。僕はあなたが誇れる息子になれなくてごめんなさい。せっかく姿をくれたのに。あなたの、血の一部を使って。  天使長様が住んでる塔に向かうまでの道には門がある。その門をくぐると両側に花畑が広がる綺麗な場所。  様々な色の、枯れない名前も知らない花達。いつもと同じ顔でそこにいるけれど、今日はそれが不気味な物に見える。  僕は別に死刑に向かうわけじゃないのに。涼くんの元に行く為に、避けて通れない道なだけなのに。そう、死ぬわけじゃないって自分に繰り返し言い聞かせてる。  きっと、羽を取られた天使たちは羽を取られた後の目標がないから絶望して、痛みと狂気の中に身を置いたんだ。僕は違う。涼くんの元に戻るっていう強い意志がある。  足取りが重いけど、ハッキリはしている。 あぁ、天使長ルシエル様はいつも通り微笑んでおられるんだろうけど、優しい言葉は、もう二度と聞けないんだろうな……。  花畑を通りすぎ、塔の前に立つ二人の出迎えの天使たちは、僕の顔を見るとあっさりとルシエル様の所へ通してくれた。もう見抜かれてるんだ。  比喩ではなくて重い重い造りの扉を開く。 中にはいつもの白くて長いマントをつけたルシエル様の神々しいお姿…。僕はこの方に言いたくないだろう事を言わせてしまうんだ。 「あぁルヒエル、私の子。よく来たね」
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!