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「――楓!」  やけに重たい瞼を持ち上げると、父と母が楓の顔を覗き込んでいた。二人の後ろの光が眩しくて、楓は目を細める。頭が痛い。  鈍痛に眉を顰める楓を、母の両腕が力強く抱きしめた。 「楓、良かった……本当に、良かった……!」 「う、痛いよお母さん」 「母さん、あまり強くしたら」 「ああごめん、ごめんね。でもほんとに良かった……っ」   楓から手を離した母は顔を両手で覆って泣き出した。その震える肩に父は優しく手を添える。  二人の後ろに大きな窓が見えた。閉じられたカーテンの隙間から見えた外の景色が真っ暗になっていることに楓は気付く。   「え、今何時?」 「朝の四時だよ。……楓、もしかして憶えてないのか?」  何を、と楓は聞こうとして、それより先に父は答えを出した。 「おまえ瓦礫に挟まれてたんだぞ。地震で校舎が崩れて」 「へ? 崩れた?」 「全壊じゃなかったみたいだが、校舎の上半分は潰れてたらしい。運良く瓦礫の隙間にいたのを発見されたんだと。まあそれも一週間前の話だが」 「一週間⁉」  自分の声が頭に響き、後頭部に鈍い痛みが走る。「痛っ」と楓は頭に手を遣った。  そこで彼女は自分の頭に大きなガーゼのようなものが貼り付いていることに気付く。「あんた頭打って倒れてたのよ。レントゲンは異常無かったみたいだけど無理しないで」とようやく話せるまでに落ち着いた母は目尻に残った涙を指で拭った。  そっか、倒れてたんだ。  降りかかる瓦礫によく圧し潰されなかったものだ、と彼女は自分の強運に感謝した。
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