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「でも良かった。ほんと、あの子が見つけてくれなかったらどうなってたか」
「え?」
「あんた頭打ったとき血が出てたみたいで、あのままだと出血多量で危なかったみたいよ。早めに発見されて病院に運ばれたから助かったんだって。奇跡的よね」
「いや、そっちじゃなくて」
あの子?
楓の脳裏に一人の影が浮かぶ。
いや、まさかそんな。
「あの子、って誰?」
「ん?」
「ほら、私を見つけてくれた子」
「ああ。あんたと同じ清澄高校の男の子だったわよ。制服も一緒だったし」
「名前は?」
「それが名前聞きそびれちゃったのよね。すぐに帰っちゃって」
何やってるのよ、と言い返そうとして、楓は直前で押し黙った。
娘の命の危機を前に、そんな余裕が無かったことくらい容易に想像できる。
自分の腕から伸びる半透明の管が、ベッドの脇に置かれた大袈裟な機械が、両目の下に濃いクマを作る両親の顔が、何よりの証拠だった。
「でもほんとすごかったらしいわよ、あの子。聞いた話だけどね、絶対あの辺りに人がいたんだ、って崩れた校舎から楓を見つけてから、走って近くの病院まで救急車呼びに行ってくれたんだって」
「え、病院ってそんなに近くないでしょ。電話とかは?」
「地震で電話も繋がらなかったのよ。だから先生が車で行こうとしたんだけど、その子に止められたらしいの」
続く母の言葉に、楓は息を呑んだ。
「走ったほうが速いから、って」
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