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不条理、という言葉がある。
人の力ではどうしようもないほどの大きな力が作用して、それがどんなに無茶苦茶な結果だったとしても受け入れざるを得ない。そんな言葉だ。
草間沙代里は今日、その言葉の意味を思い知った。
いや彼女だけではないだろう。蛍光灯の無機質な光に照らされた一年三組の教室には、その言葉が渦を巻いていた。
静かに席につく生徒たちは皆その言葉の重みに項垂れて、教卓に立つ担任の口からは彼らをさらに圧し潰すかのように淡々と不条理を垂れ流す。
「昨晩、奈良壮介くんが交通事故で亡くなりました」
担任はホームルームが始まるやいなや「皆さん静かに聞いてください」という言葉を添えてそう言った。その表情は今にも降り出しそうな厚い雲よりも暗い。
沙代里は意味がわからなかった。落ちた視線の行く先が見当たらず、念のため持ってきたビニール傘の柄を見つめる。
昨日まであんなに元気に笑っていた奈良くんが、死んだ?
そんなわけない、と思った。
そんなことあるのか、とも思った。
そんなことがあっていいのか、と白い膝の上で拳を握った。
「まだ詳しいことはわかっていないので、このことについて言いふらしたり間違った噂を広めたりしないようにしてください」
担任は色のない声で話し続ける。
あの人はいつこのことを知ったのだろう、と沙代里は思った。
どれだけ時間があれば、そんなに落ち着いて話すことができるようになるの? それとも、それがすぐにできるのが大人というものなのだろうか。
沙代里はちらりと右隣の席を見た。昨日まで奈良壮介が座っていた席だ。少し傷のついた天板には何も乗っておらず、引き出しの中からは数冊の教科書やノートがはみ出している。
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