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 ぐらりと視界が歪んで、楓は体勢を崩した。  冷たい床に尻餅をつく。  彼女の横で固い音がした。  筆洗器が床に落ちて、跳ねて、転がっていく。  机が引き摺られた。  引き出しの中身をばら撒きながら踊るように床を滑る。  イーゼルが倒れた。  ドミノ倒しのように倒れた固まりに机が激突する。  石膏像が頭から落下した。  鼻が割れて、真っ白な破片が座り込んだままの楓の元へ転がってくる。 「なに、これ……っ!」    お日様色の美術室が歪んでいた。  楓は生物のようにのたうつ床に両手をついて体勢が崩れないように支える。  彼女の目の前を、重力を忘れた教卓やキャンバスが横切った。少しでも気を抜くと自分も同じようになってしまう、と息を呑む。手を伸ばして壁に備えつけられたシンクを力いっぱい握りしめる。  必死に耐える彼女の耳に、紙を破るような破砕音が届いた。  それから彼女の目に、壁に描かれた一本の線が映る。  その線はみるみるうちに枝分かれして床に、窓に、天井に走る。蛍光灯が砕けて落ちた。 「――うそ」  その呟きは轟音に圧し潰され、後頭部への衝撃で楓は意識を失った。
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