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 気が付けば、楓は深い霧の中にいた。  暗闇ではないはずなのに何も見えないし掴めない。  数歩足を踏み出してみても、この霧はどこまでも続いているようだった。どこまで行けるとしても、どこに向かえばいいのかわからない。進むべきか、この場で待つべきかもわからない。    ――誰か。    叫んでみたけれど、彼女の口から声は出なかった。  どうしてこんな所にいるんだろう。どうにか思い出そうとしても、その記憶は真っ黒に塗り潰されてしまったかのように何も見えない。    ――何を思ってたんだっけ。    霧の中をあてもなく歩きながら、楓は考え続けた。    ――私は、何を思ってたんだっけ。    足音のない場所をひたすら進んでいく。  自分は何をしていたのか。何がしたかったのか。嬉しかったのか。悲しかったのか。心を探すように歩き続ける。  ――そうだ、見せたかったんだ。  しばらく歩いているうちに、彼女はひとつ目の感情を見つけた。  見せたかった。  それはとっても綺麗なもので、自分だけのものにしたくって、誰にも見せたくなくて、でも見せたかった。そんなおかしなことを思っていた。  ――そんなおかしなことを、どうして思ったんだろう。  楓がそう考えたとき、頭の中の真っ黒な部分が人の形を作っていることに気が付いた。  彼女は立ち止まり、振り返る。
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