転校生

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転校生

一瞬、空気が変わる。 藤堂 蘭(トウドウラン)が教師に連れられて、教室に入ってきた。 夏休み明けの私立一宮高校2年1組は、何処へ旅行に行っただの、課題がまだ終わっていないだの、彼氏が出来ただの色んな話題で大騒ぎだった。 それが、藤堂を見た瞬間、みんな黙り込んだ。 (うわ…めちゃくちゃ綺麗な人だな…) 間宮夕貴(マミヤユウキ)も皆と同じように息を飲んで黙り込む。 『綺麗』という言葉は、男性の褒め言葉ではないかもしれないが、やはり藤堂は『綺麗』だった。 すんなりと伸びた身長、手足。 教師の身長から推測すると180以上はありそうだ。 サラサラすぎて、髪が小さな顔にかかってくるのを時折かきあげている細く長い指。 「藤堂です。よろしくお願いします」 ぺこりと藤堂が頭を下げ、その少し低い声の甘さに女子生徒達が思わず、きゃあ、と声を上げた。 「藤堂くんは、都内の高校から転入して来ました。みんな色々教えてあげてください」 生真面目だけが取柄の数学教師、田中がボソボソと言う。 「ほおー」と感心するような声が上がる。 「席は、えー、間宮の後ろ空いてるよな」 「あ、はい」 夕貴は、ピクリと身体を緊張させた。 正直、嫌だ。 夕貴は、身長も低いし、顔だって普通だし、勉強もスポーツも何もかも中途半端。 あんな人が後ろに来たら、万年引き立て役じゃないか。 「よろしく」 藤堂が移動するのをクラスのほぼ全員が見守っている中、彼は夕貴にだけ笑いかけた。 「あ、よ、よろしく」 ただの転校生に動揺してしまう自分が恥ずかしい。 後ろから視線を感じ、動きがぎこちなくなってしまった。
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